【シンガポール】
シンガポールにおける健康政策について

はじめに

シンガポールには甘党の人が多く、ランチタイムになると、ジュースや練乳入りの甘いコーヒーを片手に職場に戻る人々がいます。このような背景も影響し、2022年のシンガポール保健省の報告によると、シンガポール国民（18歳〜74歳）の糖尿病の有病率は8.5％と高く、国民の生活習慣病の増加が社会問題となっています。現在、政府は国民の生活習慣病の予防や健康促進を目的として様々な対策を講じています。今回はシンガポールにおける健康政策についてご紹介します。

ニュートリグレード表示制度

2022年12月に政府は、国民の肥満や糖尿病患者などの生活習慣病の予防を目的に、「Nutri-Grade（ニュートリグレード）」の表示制度を導入しました。
小売店等で販売される容器入りの飲料（アルコール飲料を除く）は、糖分や飽和脂肪酸の含有量に応じてA～Dの４段階に区分されます。糖分等の含有量が多い「カテゴリーCまたはD」に分類された場合、パッケージ前面へのニュートリグレードマークの表示が義務付けられています。政府は、飲料の購入にあたり、ニュートリグレードがAまたはBの商品の購入を推奨するとともに、Dに分類された商品の試飲販売や広告等を禁止しています。

2023年12月には、カフェなどの店頭で作るコーヒーやジュースについても同制度が適用されました。ニュートリグレード表示制度の導入により、糖分等の含有量が可視化され、消費者の意識が変化するだけでなく、製造者に対しても、より健康的な商品開発の促進につながっています。

また、2022年に政府が実施した調査では、国民の９割が１日平均3,620mgのナトリウムを摂取しているとされ、推奨摂取量上限の2,000mgを大幅に上回っています。そのため、政府は高血圧症や脂質異常症のリスクとなるナトリウムや飽和脂肪酸の過剰摂取を防止するため、2027年半ばを目標に調味料やインスタントヌードルなどの対象製品にもニュートリグレードマークの表示制度を導入すると発表しています。

国民の運動習慣を促進する「Healthy 365」

国民の運動習慣の促進や健康維持を目的として、シンガポール健康増進委員会は、「Healthy 365」というアプリを立ち上げました。
このアプリは、シンガポール国民だけでなく、労働ビザ保有者も登録可能です。ウォーキングの歩数や対象スーパーでヘルシアチョイスマーク（健康維持に良いと認定されたマーク）付商品の購入により、ポイントを獲得することができ、アプリ内で貯めたポイントは、公共交通機関やスーパーで使用可能なクーポンと交換できます。

また、シンガポール国民は、アプリから申請することで歩数や運動時間が測定可能なデバイス（HPB Fitness Tracker）を、無料で手に入れることができます。

シンガポールでは、国内のあらゆる場所で、人々が集まり、ヨガやダンスなどのアクティビティが開催されています。アプリで各イベントの日時・開催場所の確認や申し込みができ、人々の健康維持や地域コミュニティ活性化にも役立っています。

予防医療に向けた「Healthier SG」の推進

シンガポール統計局によると、2024年の国民の平均寿命は83.5歳であり、世界有数の長寿国となっています。高齢者の割合が上昇する中、政府は予防医療に重点を置いた取組みとして、「Healthier SG」を推進しています。
このプログラムの中核には、「かかりつけ医の登録」があります。40歳以上の国民及び永住者を対象に、かかりつけ医を登録し、個別のライフスタイルに合わせた健康プランや目標を策定し、定期的なフォローを受けることができる仕組みであり、初回の健康計画相談は無料です。食事や運動に関する指導だけでなく、予防接種やスクリーニング検査に関する助言が含まれています。
「Healthier SG」に登録し、かかりつけ医との健康相談の助言に基づき、特定の検査や予防接種を受けた場合、政府の補助金支給の対象になります。病気の予防と健康維持のための一連のサポート体制が提供されています。

おわりに

シンガポール政府は、栄養成分の可視化やインセンティブ制度による運動習慣の促進など、多角的なアプローチで国民の健康を積極的に支援しています。これらの政策は、国民一人ひとりの意識と行動変容を促し、生活習慣病の予防や運動習慣の定着促進につながっています。
先進的な取組みにより国民の健康寿命延伸を図るシンガポールの政策は、今後も世界から注目されそうです。