生成AIが企業にもたらすインパクト
~生成AIの最新状況と事業への活用ポイント~
公開日:2026.10.15
INDEX
【講師略歴】
1969年生まれ、岐阜県出身。日本マイクロソフト株式会社の業務執行役員でエバンジェリスト(エバンジェリストとはわかりやすく製品やサービス・技術を紹介する職種)。
1996年から日本オラクル株式会社にてプロダクトマーケティングおよびエバンジェリストとして従事、2009年から現職。2012年には日本経済新聞にて「IT伝道師」として紹介、2013年には日経BP社から“世界を元気にする100人”に選出。2016年に京都大学iPS細胞研究所コミュニケーションアドバイザー、2022年にノーコード推進協会NCPA理事に就任。他にも、日本デジタルトランスフォーメーション推進協会アドバイザー、ドローン投資ファンド 「DRONE FUND」アドバイザリーボードを務める。
主な著書:「プレゼンは“目線”で決まる」、「新エバンジェリスト養成講座」など
AIとは
AIの誕生
AI(人工知能)とは、Artificial Intelligenceの略称で、人間の脳が行っている知的作業をコンピューターで模倣したソフトウェアやシステムのことを指します。AIは人間が使う自然言語を理解し、論理的な推論を行い、経験から学習します。
歴史をさかのぼると、AIは1956年に登場した約70年の歴史を持つ学術研究分野です。この70年間、AIについて語っていたのは大学の研究員や企業の研究開発部門に従事する人々でしたが、ようやく今、誰もがAIについて語る時代になりました。
AIの能力レベル
AIは非常に高いレベルの能力を次々に獲得しています。気象や渋滞、商品の在庫変動や売れ行き、顧客行動などの予測の精度は90%以上、車の車種やナンバープレートの識別、顔認証といった画像認識率は96%など、人間と同等またはそれ以上の能力と報告されています。AIはこれほどまでの能力を持つようになりました。
生成AIとは
生成AIの仕組み
AIは大量のデータを認識、分析、予測し「答え」を導き出すことを得意としますが、生成AIはどういった点がAIと異なるのでしょうか。
まず生成AIは、インターネット上からウェブページ、書籍、ニュースなどあらゆる情報を対象とし、大量のテキストや画像といった学習データを収集します。次に学習データを基にGPU(Graphics Processing Unit)と呼ばれる高性能な計算機で膨大なデータから言語パターンやルールを大規模に学習処理します。このことにより、生成AIは人間が自然言語で入力する指示に対し、学習した世界中の知識を使用して回答を生成する点がAIと異なります。
生成AIの能力レベル
生成AIの言語モデルの能力は、ペンシルベニア大学経営学修士課程(MBA)の最終試験や米国医師免許試験、司法試験で合格点に到達するレベルに達しています。他にも日本の大学入学共通テストでは9科目満点となり、最難関である東京大学理科三類を上回る頭脳が報告されています。
生成AIは世界中の多くの公開情報や言語を学習し理解しています。そのため、従来のAIのように情報収集や調査、データ分析のみならず、文章や画像、資料、音楽や動画、アプリケーションを素早く作成することが可能です。
次々と登場する生成AIサービス
現在、多くの生成AIサービスが登場しており、音楽や動画生成のほか、アプリケーション開発に特化した生成AIなども登場しています。以下は主な生成AIサービスです。
主要サービス例
ChatGPT(OpenAI社)
Claude(Anthropic社)
Gemini(Google社)
Copilot(Microsoft社)
モデルの能力競争よりも重要なこと
生成AIが登場して以降の約3年間、Anthropic社などの各社は激しい能力競争を繰り広げてきました。各社の生成AIの能力は第三者機関が数値化(Arena Elo)して公表しており、その動きを表したのが以下のグラフです。各社とも能力が急激に上がっていることが分かります。ここで我々Microsoftがグラフにないことに気づかれた方がいらっしゃると思います。MicrosoftのCopilotは頭脳であるエンジンを「AnthropicのClaudeとOpenAIのGPTのどちらにしますか。」と選択できるなど、生成AI間で議論して答えを出す特徴があります。よってMicrosoftのCopilotは別にご紹介させていただきました。
このように生成AIの能力は高まっていますが、生成AIの能力競争を考えるうえで重要なことは、「どの生成AIが優れているか」という議論は既に終わっているということです。モデル(頭脳)は十分に成熟し、十分に賢いレベルに達しています。どのモデルの使用が良いかを考えるのではなく、生成AIを活用して「何をするか」、生成AIに「何を与えるか」が重要です。
【AIの歴史】
AIの研究開発が始まった1960年代は、コンピューターの性能面で計算能力やデータ処理に限界があり、当時のAIは単純な仮説の問題しか扱うことができませんでした。
1980年代にはコンピューターの高性能化が進み、人間がAIに情報を与えることで、AIは実用可能な水準に達しました。しかし、当時のAIは必要な情報を自ら収集して蓄積することはできませんでした。
2000年代から現在にかけて、コンピューターの演算処理能力が向上したことにより、膨大な情報(ビッグデータ)を処理することでAI自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化されました。次いで、知識を定義する要素
をAIが自ら習得する「ディープラーニング」という技術が登場したことで、AIの性能が飛躍的に向上し、様々なコンテンツを生成できる生成AIが誕生しました。2022年11月に「ChatGPT」が登場すると、翌年の2023年日本ヒット商品ランキングでは「ChatGPT」が最高位にランクインし、2025年には新語・流行語大賞ノミネート語に「チャッピー」が選ばれるほど、生成AIは急速に普及しました。
実践例
生成AIの多様な実践例を小説の作成を通じて紹介します。
小説の作成
生成AIに「台風に関する研究を専攻し、気象予報士を目指す学生が、愛媛県松山市で女性と出会います。その女性は松山で様々な祭りに参加しており、愛媛県の魅力を学生に伝えるうちに、2人は恋に落ちます。次第にサスペンスのように殺人を含む様々な事件に巻き込まれますが、共に成長する様子を小説として作成してください。」と指示します。すると、生成AIは次のような「台風の目で、君を待つ」というタイトルの章立てされた小説を作成します。
【講演中に生成AIが作成した小説(抜粋)】
「台風の目で、君を待つ」
第一章 松山、南からの風
八月の松山は、風まで熱を持っていた。松山空港を出た瞬間、久世航平はそれを肌で感じた。湿度七十八パーセント、気温三十三・一度、南南東の風、毎秒四・八メートル。航平は無意識にスマートフォンの観測画面を確認した。…
第二章 三津浜の花火
第三章 九百八十七ヘクトパスカル
…
第九章 西条の灯
最終章 予報
けれど航平は、もう空を数字だけでは見ていなかった。その空の下にいる人間まで含めて気象なのだと思っていた。そして遠く南の海で新しい渦が静かに生まれ始めていた。
表紙画像の作成
生成AIは本の表紙画像の作成も可能です。生成AIに「作成された小説を書店で売りたいと思います。小説の内容を踏まえ、製本された際の表紙画像を作成してください。」と指示すると、小説の帯も含め、表紙画像が作成されます。
販促資料の作成
次に生成AIに「小説を書店等に紹介するための販促資料を、パワーポイントで作成してください。」と指示すると、13枚のスライドで構成された資料が作成されます。作品概要やあらすじ、読みどころや想定読者層のグラフなどが網羅されています。なお、生成AIは作成したパワーポイント資料を読み上げ、プレゼンテーションをする動画も作成します。しかしここで、プレゼンテーション後の質疑応答には対応できないのではないかという疑問を持たれる方がいると思いますが、資料の内容について人間が質問を投げかけると、回答を作成して読み上げることも可能です。
音楽/動画の作成
音楽生成AIに小説の概要文を入力し、小説のテーマ曲を作成するよう指示をすると、約10秒で小説の内容に基づいた楽曲を2曲作成します。作詞・作曲・演奏・歌唱まで全て生成AIが担当し、ジャケット写真も作成されています。生成された作品が意図した作品と異なる場合は、修正の指示を与えることで再作成が可能です。もし実在する作曲家や作詞家に楽曲の作成を2曲依頼した場合、楽曲の採用を却下することは難しいのではないでしょうか。
また、動画生成AIに「小説が映像化された際の予告編を作成してください。」と指示すると、小説の内容に沿った10秒間の動画を作成します。
アプリケーションの作成
生成AIに「小説が販売された際に著者の収入となる印税をシミュレーションするアプリを作成してください。」と指示すると、販売価格や印税率を入力するだけで印税収入がシミュレーションされるアプリが作成されます。
指示や活用時のポイント
指示のポイント
①自然言語での指示が可能
日常会話のような自然言語で指示が可能であるため、プロンプト※という概念は不要です。通常の業務で他者へ指示をする際と同じように、生成AIに業務の目的や内容を提示し、必要な材料を与えます。
※プロンプト:AIに人間が入力や指示を行うためのきっかけや合図
②具体的な指示が効果的
最終的なゴールを明確にし、そのために必要な要素を具体的に指示すると、より指示者の意図に沿った作品が生成されます。例えば生成された作品に修正や改善の指示をする際に、「新聞記事のような文章に作り替えてください。」などと実際のイメージ感や参考となる画像を提供して指示をするといった次第です。また、生成AIに画像とテキストなど、異なる媒体を組み合わせて情報を与えることも可能です。
③情報の信頼性の確認方法
生成された回答に対して、情報の信頼性を確認する方法は2点あります。1点目は生成AIが提示するソースを確認、2点目は生成AIに直接質問をして検証をする方法です。2点目について、生成AIが生成した回答に「出力された回答は信頼性の高い情報ですか?」と尋ねると、誤りがある場合は誤りの箇所を提示し、正しい回答を再作成します。
活用時のポイント
①生成AIはパターンを記憶する
回答の出力方法についても指示が可能です。生成AIに「質問に対する回答だけを明確に回答してください。他の余分な情報の提示は不要です。」と指示すると、生成AIはメモリーを更新します。以降の回答は、指示に従った方法で出力されるようになります。
②生成AIは使えば使うほど賢くなる
生成AIはユーザーの名前や生年月日といった基本情報から、個々のユーザーの仕事のやり方や判断基準を学習します。そのため、生成AIは明示的に教えずともある程度の情報を会話の流れの中で覚えることから、使えば使うほど賢くなります。
「使う」から「使いこなす」へ
生成AIの活用を推進する理由
①低コスト
従来のコンピューターシステムの初期導入時には、初期費用の負担が大きな課題でした。しかし、生成AIのほとんどのサービスはサブスクリプション型のため、導入も利用の停止も容易です。試験的導入から本格導入へステップアップする際も、プランの変更で事足ります。この柔軟性が企業の導入ハードルを大幅に引き下げます。
②人員の増員は不要
これまでDXの導入やAIの活用によるデジタル化の推進を検討する際には、データ分析の専門家や、プログラム・コマンド・データ形式を理解し特殊なツールを操作する専門技術が必要だと言われていました。しかし、生成AIの登場によってこの状況は一変しました。生成AIの最大の特徴は、自然言語で指示を出すだけで誰でも利用できるという点にあり、ソフトウェアサービスを利用するための高度な専門知識を要しません。生成AIに関しても、従前どおりデジタル技術に詳しくITもAIも使いこなすことができる新たな人材が担当した方が良いのではないかという意見があります。ですが、彼らは既存の従業員が兼ね備えている製品や商品の知識、法令や規則、顧客や取引先、地域に関する情報といった知識を持ち合わせていません。他にも、経験やノウハウ、従業員同士や経営者とのつながりなども持ち合わせていないことから、AIを使いこなすことができても仕事をこなせるわけではありません。生成AIは人員の増加や、新たな人員の採用を必要とせず、限られた人員の中でより大きな効果を生み出すことができる、初めての技術だと思います。
③業務時間の効率化
生成AIを活用することで、仕事での時間の使い方が大きく変わります。生成AIに情報分析や資料作成等を任せることで、これまで要していた時間を、生成AIでは代替することができない客先訪問や、より高度な判断を伴う創造的な業務に使うことができるようになります。これからの人間の仕事は、ゴールを考えながら生成AIに情報を与えて指示することです。
企業活動への生成AIの取り入れ方
企業活動に生成AIを活用する際には、以下の優先順位で導入することをお勧めします。
①文書作成
日常的に必要な提案書や報告書、メール対応といった定型業務を生成AIに指示することで、事務作業の時間を大幅に削減できます。
②情報整理
会議の議事録作成、会議資料の要約、マニュアル作成などが挙げられます。生成AIは、会議で使用したホワイトボードの画像から議事録を作成することも可能とします。
③営業支援
顧客ニーズの分析、提案資料の作成、商談準備を生成AIに指示することで、営業活動の質と効率が向上します。
④経営支援
市場調査や競合分析、補助金申請書類の作成といった経営判断に必要な情報整理を生成AIが提供します。
生成AIによる変革の方程式
変革=モデル(生成AI)×情報・文脈×使い方
この掛け算においてどれか一つがゼロであれば、答えはゼロになります。「モデル」はゼロではないことから、優れたモデルがあっても良い情報がなければ成果はゼロ、豊富な情報があっても使い方が間違っていれば成果はゼロになります。
また、誰でも同じモデルを使うことができる時代のため、「顧客や現場、取引の一次データといった組織固有のデータ」や「資料や会話などで蓄積される知識」、「背景や制約、企業固有の業務の取り組み方といった業務コンテクスト(文脈)」といった各企業の個別性や、生成AIの活用方法が変数となり、成果の差が生まれます。
成功する企業の共通点
以下は生成AIの活用に成功する企業と失敗する企業の特徴です。生成AIに詳しい企業が成功するわけではありません。
成功する企業の共通点
・とにかく毎日使ってみた
・経営者も社員もみんなで取り組んだ
・完璧を求めなかった
・生成AIが適切に情報を参照できていた
失敗する企業の共通点
・導入計画ばかり作る/投資効果を図る
・IT部門だけで検討し活用を広める
・精度を気にする
・組織の情報がバラバラ
リスク
情報漏えい
多くの方がOpenAIのChatGPTを利用していますが、設定画面の「データコントロール」というパーソナライズ項目の中に「モデル改善に協力する」という項目があります。この項目を「オン」にすると、ChatGPTは入力した質問や回答内容を学習し、モデルの改善に利用します。デフォルトの設定はオンのため、実際に多くの情報が外部に流出している状況です。生成AIの学習に利用されないために、「データコントロール」の設定は必ずオフにする必要があります。なお、Microsoftのサービスはデフォルトの設定がオフになっています。
アメリカIBMの調査によれば、昨年1年間だけでもシャドーAI(許可されていない生成AIの個人利用)により、個人情報や技術情報、財務情報や人事情報、企業の研究データが漏えいしています。
「それは大企業の話だろう」と思われるかもしれませんが、実態は逆です。生成AIの企業規模別利用率を見ると、従業員数が5千人以上の大企業においては、生成AIの利用率が約7割に達しています。このような大企業では、社内で生成AIの使用が許可され管理されています。しかし会社で許可されていない場合は、従業員が個人的に利用をする個人利用者の割合が非常に高くなります。よって個人利用分についてデータコントロール設定をオフにしなければ、情報漏えいが発生します。実際に個人が生成AIに質問した内容が、Google検索で公開されている事例も確認されています。
他にもBCG(ボストン・コンサルティング・グループ)が2025年に11か国10,600人以上に実施した世界AI意識調査では、「正式に許可されていなくてもAIツールを使う」と回答した割合が54%に達していると報告されています。この結果はZ世代やミレニアム世代で特に高い傾向がみられています。
著作権
生成物の利用が著作権侵害となるかどうかは、人間が生成AIを使用せずに作成する場合と同様に判断します。生成AIが生成した既存の著作物と類似性がある作品の使用について、生成AIが生成すること自体は問題ではなく、その指示者と生成物の使用者に責任が発生します。著作権侵害となる場合は、損害賠償請求や差止請求、刑事罰の対象となります。なお、Microsoftのサービスは商用利用を念頭に置いているため、著作権で保護されているイラストは作成できないようにガードがかかっています。
政府が示す重要性
AI基本計画の閣議決定
生成AIの登場から約4年が経過しました。若い世代は「チャッピー」と親しみをもって会話に取り入れていますが、日本の企業や組織、教育機関や自治体の業務では生成AIの活用が進んでいるとは言えません。
この状況を受けて、政府は生成AIの重要性を強く認識し、2025年12月に「AI基本計画(人工知能基本計画)」を閣議決定しました。さらに2026年7月には改定案も閣議決定しています。日本の政治史の中で、AIという名前の付く法定計画が閣議決定されたのはこれが初めてです。このことは、国の支援が「DX支援」から「AI導入支援」へ移行し、AIの社会実装が国の成長戦略の中心になったことを示しています。つまり、国は生成AIによる国力の強化を正式に決定したのです。閣議決定は単なる形式的な決定のように思われるかもしれませんが、予算や制度変更に影響を与える極めて重い決定です。
予算や制度の変更点
経済産業省と中小企業庁が実施していたIT導入補助金は、2026年4月から「デジタル化・AI導入補助金」に正式に名称変更されました。名称そのものが変更され、AIを含むITツールの導入が制度の中心となりました。このことにより、中小企業からのAI関連の申請が多数集まっている状況です。
また、各省庁の施策の重点が生成AIの活用へと移行し、生成AIの活用が前提条件となったことから、次のような制度の変更がみられます。例えば、建設業界においては、国が発注する公共工事(直轄事業)で発注者である国と受注者が協議し、生成AIをどのくらい活用するか取り決める制度が始まりました。また医療業界では定められた点数が診療報酬として医療機関の収入になりますが、医療機関が生成AIを使用することが診療報酬の加算対象となりました。他にも製造業や物流業界などさまざまな業界で、生成AIを活用した業務自動化や省力化などが進められています。このように政府主導で企業・団体に生成AIの導入を促す環境が整備されつつあります。
最後に
多くの企業が、人手不足や優秀な人材の採用難、DX関連のスキル不足といった課題を抱えていると思いますが、生成AIは限られたリソースの中で、より大きな成果の創出を可能とする技術です。生成AIの活用はもはやIT戦略にとどまらず、人材戦略、さらには経営戦略です。従業員全員が生成AIを活用する組織作りが、経営者が取るべき判断です。皆様の情報や知識、仕事のやり方を生成AIに投入してみてください。
一覧へ戻る