IRCニュー・リーダー・セミナー(35期)海外研修旅行
公開日:2026.09.18
INDEX
はじめに
次代を担う若手経営者の学びの場として、1989年より開催しているIRCニュー・リーダー・セミナー。「海外研修旅行」は、1年間のカリキュラムの目玉の一つだ。
今回訪れた国は、「アジアの工場」として製造業の集積が進むタイと、東南アジアの金融・物流ハブとして高い経済水準を誇るシンガポールである。
日本に本社を置く企業の現地法人5社に加え、伊予銀行シンガポール支店や同国の都市・水資源政策を紹介する施設など計8先を、ニュー・リーダー・セミナー35期生20名とともに訪問し、発展段階の異なる両国の産業やビジネス事情、そこで奮闘する日本人駐在員の姿から気づきを得た。
訪問地の基本情報
(1)タイ
日本からタイ・バンコクまでは直行便で約6時間半。インドシナ半島の中央部に位置し、長い交流の歴史を持つ親日国である。バンコクを中心に外資系企業による工業化で経済発展を遂げてきた一方、都市部と地方との経済格差は依然として大きい。
実際にバンコクの中心部に立つと、高層ビルや大型商業施設が立ち並び、日本の大都市と比べても遜色ない都会ぶりに、セミナー生の多くが驚いていた。一方で、市街地を少し外れると未整備の道路やバラック建ての家屋が点在し、同じ国の中に大きな違いが存在することを肌で感じた。街には屋台があふれ、交通量も多く、街全体からエネルギーと商売っ気が伝わってくる。
もう一つ、多くのセミナー生の印象に残ったのが「働く女性の多さ」だ。今回訪問した工場では、いずれも働き手の多くを女性が占めていた。現地では「男性より女性の方がよく働く」と語られており、日本とは異なる労働観・家庭観が社会に根づいていることも、現地に来てはじめて分かる発見だった。
(2)シンガポール
シンガポールは1965年にマレーシア連邦から独立した都市国家だ。国土は東京23区よりやや大きい程度、天然資源はなく、水も食料も輸入に頼ってきた。それにもかかわらず、1人当たりGDPは日本を大きく上回り、世界有数の経済都市として発展を続けている。
街を歩けば、デザイン性に富んだ高層ビルと豊かな緑が共存し、ゴミが落ちていない。地下鉄などの交通網は厳密な土地利用計画に基づいて整備され、どこへ行くにも移動しやすい。多民族国家らしく、英語のほか日本語を含む多言語の案内表示が至るところにあり、外国人にとっての利便性の高さも際立っていた。
一方で、物価の高さは強烈だった。食事や酒は日本の1.5~2倍以上、自動車は購入権制度により1台約2,000万円かかると聞き、日本との違いに驚かされた。街の清潔さや生活水準の高さの裏側で、生活費や住居費の負担は非常に重い。円安も相まって、「安く海外へ行ける日本人」という従来の構図は完全に過去のものとなったことを、セミナー生全員が痛感することとなった。
タイでのビジネスを知る
(1)HYMOLD (THAILAND) Ltd.
まず訪れたのは、東洋電化工業株式会社(本社:高知県)の関連会社のHYMOLD (THAILAND) Ltd.である。手掛けているのは鋳物の材料となる特殊合金で、鉄・シリコン・マグネシウムを組み合わせたこの製品は、鋳鉄鋳物を製造する際に用いられ、自動車の安全性や強度に大きく貢献しているという。原料から材料をつくり出すという工程そのものが、多くの参加者にとって初めて目にするものだった。しかもその製品がマンホール蓋など身近なところで使われていると知り、「目には見えないけれど社会を支える技術」の重要性を実感する視察となった。
同社の歩みは平坦ではない。過去の大洪水で設備の大半を失った際には撤退を検討したが、工場の売却もできず(買い手がつかなかった)、そのときの最善の方法が事業転換だったという。大きな被害を乗り越えて事業を転換し、成長を続ける姿からは、拠点経営者としての強さが伝わってきた。
マネジメントに関するお話も興味深かった。タイでは上司を「ボス」として尊重し、その指示に忠実に従う傾向があるという。自社に外国人従業員を迎えているセミナー生からは、その素直さや指示を受け止める姿勢がよく似ているとの声もあがった。ものづくりの現場を知るだけでなく、タイの文化や働き方、そして日本国内で外国人材と働く場面にも通じる学びを得られた1社目となった。
参加者の声≪HYMOLD (THAILAND) Ltd.≫
新産道路株式会社 髙橋 信太郎
主に鋳物の材料を製造する工場で、過酷な環境のなかで日々仕事をされている様子を見学し、お話を伺うことができた。モノづくりへの想いと大変さをリアルに感じることができた。
ナガイ株式会社 永井 光陽
駐在者の大場さんの人生観に強く惹かれた。旅行で訪れたタイを気に入り、そのまま現地で働き始め、結婚して子どもを育てながら30年近く生活されているという。異国の地で自分の居場所を見つけ、人生を築き上げてきた経験はなかなかできるものではなく、とても印象に残った。
(2)Hikari Tech (Thailand) Co., Ltd.
同社は、自動組立機・ラインの開発、設計、製造、販売からメンテナンス、機械加工までを一貫して手掛ける株式会社ヒカリのタイ拠点であり、顧客の要望に合わせたフルオーダーの機械を製作している。同グループは日本・タイ・中国の3拠点で事業を展開しており、最大の見どころは「どの拠点でも同じ品質を実現する」ための徹底した仕組みづくりだ。
求められる精度を安定して実現するには、ここまで徹底した取り組みが必要なのかと驚かされる。工場内は整理整頓が行き届き、各工程のポリシーや改善活動が目に見える形で掲示されていた。進捗状況の確認や作業分担、作業内容のリスト化といった日々の管理も細かく行われており、その積み重ねが高い生産性を支えているのだと感じられた。
機械加工の内製化も進んでおり、コスト最適化と人材活用を両立させている点が印象的だった。短時間の視察ではあったが、訪問時に社員の皆さんが作業の手を止めて一礼し挨拶してくださった姿にも、現地のカルチャーに合わせた職場づくりとチームづくりの成果が表れていた。
参加者の声≪Hikari Tech (Thailand) Co., Ltd.≫
株式会社紫蘭 池野 幸子
定物定位が徹底され、誰が作業しても一定の品質を維持できるよう仕組み化されていた。属人的にせず、会社として品質を作り込もうとする姿勢に感銘を受けた。当たり前のことの積み重ねが社員教育となり、品質となり、最終的には業績につながっていくのだと感じた。
株式会社伊勢屋商店 伊勢家 正裕
工具置き場に使用者の顔写真を掲示し、所在を明確に管理するなど、5S活動の徹底ぶりに驚いた。どの拠点でも同じ品質の製品を供給するための取り組みで、大変参考になった。
株式会社長井商会 小林 大悟
タイでの生産には人件費の安さというメリットがある一方、日本向け製品には日本製部材の使用を求められるケースが多く、輸入コストが発生するため原価低減に直結しないという現実も学んだ。各工程の稼働率を数値で見える化して課題を明確にし、改善につなげる姿勢が参考になった。
(3)ELLEAIR INTERNATIONAL (THAILAND) CO., LTD
愛媛県四国中央市に本社を置く大王製紙株式会社のグループ会社である同社は、タイでベビー用紙オムツや生理用品など紙製品を製造している。愛媛にゆかりの深い企業であり視察を楽しみにする声が多く聞かれた。
同社が大切にしているのは「お客様の声を何度でも聞く」という姿勢で、現地ニーズに根ざした商品開発が信頼につながっているという。
質疑を通じて理解が深まったのが、内製化の線引きだ。不織布については自社で紡糸まで行っていると想像していた参加者もいたが、実際には原反を購入しているとのことだった。何を自社で担い、何を外部から調達するのか——内製化のメリットとリスクを慎重に見極めたうえで事業を組み立てていることがうかがえ、規模の異なる企業にとっても考えさせられる論点となった。
また、工場見学の際に接した現地ワーカーの方々の礼節ある対応も強く印象に残り、教育や企業文化が国境を越えて浸透していることを実感した。それは、日本国内で働く自分たちの職場を振り返る機会にもなった。
参加者の声≪ELLEAIR INTERNATIONAL (THAILAND) CO., LTD≫
ABC開発株式会社 合田 育真
原材料調達の関係で製造している品目は日本より少ないが、少ない製品に特化することで経費を抑え、生産性を上げようとする努力が感じられた。中国製品が台頭するなかで、価格ではなく質で勝負する姿勢は日本企業らしいと思った。
新和工業株式会社 古川 翔之助
不織布関連の試験機・生産機の設計・製作を得意とする当社にとって、不織布を用いた製品づくりの現場は非常に興味深く、通常では見る機会の少ない製造現場を見られて大変貴重な時間だった。
(4)MIKASA INDUSTRIES (THAILAND) CO., LTD.
タイ最後の視察先は、バレーボールをはじめとする各種ボールを製造する同社だ。広島県に本社を置く株式会社ミカサの海外生産拠点で、オリンピックでの公式球採用実績も持つ。タイ工場は世界150か国へ製品を送り出している。
工場では、機械化された工程と熟練作業員による手作業が見事に融合していた。ゴムボールを回転させながら糸を巻いて丸くしていく工程は自動化される一方、意匠性や握りやすさを左右する表面の皮貼りは手作業が中心だ。皮の周囲を薄く削ぐ加工を一瞬で行い、短時間で貼り上げていく職人技には、多くのセミナー生が見入っていた。熟練の作業者は全員が女性で、単調になりがちな工程でも驚くほどの集中力を保っていた。
品質へのこだわりも徹底している。競技団体の規定では「壁に2,000回打ち付けても壊れないこと」が求められるところ、同社の社内基準はその10倍の2万回。「規定を超えたらよし」ではなく、自社が提供すべき価値から社内基準を定める思考態度は、業種を問わず学ぶべきものだった。
運営面では、個人のスキルにばらつきがあることを前提とした工夫が随所に見られた。言語ごとに用意されたマニュアル、作業の不公平感が出ないよう定期的に行うローテーション、生産目標の達成度に応じたインセンティブ——誰が・いつ・何をやるかを明確にする仕組みが、ミカサブランドの品質を支えていた。
参加者の声≪MIKASA INDUSTRIES (THAILAND) CO., LTD.≫
浅川造船株式会社 浅海 悠人
現地人同士のメンター制度や人事評価制度の話が大変参考になった。当社も技能実習制度でインドネシア人を受け入れており、入国初年度は言葉の壁による怪我や事故リスクが高い。同様の仕組みを導入できれば確実にリスクが減り、働く本人にとってもメリットがあると感じた。
株式会社ファースト 一色 貴矢
ISO45001・ISO14001・ISO9001の3つを基本とした安全・環境・品質の体系的な管理が安定した工場運営を支えていることを学んだ。また「指示するだけでなく、一緒にやって見せながらフォローすることが大切」という考え方は、海外拠点における人材育成と信頼関係の構築において重要なポイントだと感じた。
株式会社BRC 橋本 佳祐
工場というと機械での作業が多いイメージだったが、人の手作業による工程が多く、機械を導入するよりも人件費に充てたほうがコストを抑えられるとのことで、労働力の豊富さを実感した。日本人とタイ人の働き方の違いを理解したうえで、タイの方に合った指導・教育に力を入れているように感じた。
株式会社伊予銀行 長井 崇
最大の学びは、ただ「伝える」のではなく「同じ理解を得る」コミュニケーションの重要性だった。言語や文化が異なる海外拠点だからこそ、「言わなくても察してもらう」という曖昧さを一切排除し、解釈のズレをなくす工夫が凝らされていた。同時に、現地のリーダーやスタッフのメンツを保ち、尊重しながら意思疎通を図る姿勢は、国境を越えた信頼関係の基盤になっていると感じた。
シンガポールでのビジネスを知る
(1)伊予銀行シンガポール支店
最初に訪れたのは伊予銀行シンガポール支店である。企業を訪ねる前に、まず国そのものを知るべく、同支店の重見代理から同国の概況や経済状況について説明を受けた。松山から遠く離れたこの地に金融機関の拠点があることが、愛媛の企業にとって海外を身近に感じとれる機会となった。
シンガポールは東南アジアの中心地という立地を生かした物流の一大拠点であり、世界最大級のコンテナ港を擁する。滞在中も、バンカー(燃料補給)待ちの船が沖に何隻も停泊している光景を目にした。一方で、天然資源に乏しいという側面も併せ持つ。水も食料もその多くを輸入に頼り、農地はほとんどない。そのような中、製造業はGDPの約2割を占める。国土も人手も限られるなかで、単位面積・一人当たりの付加価値が高い分野―エレクトロニクスやバイオ・医薬品、航空宇宙、精密機械―に産業を絞り込んできたからだ。
支店では、家賃の高さや自動車保有コストの重さなど、駐在員や進出企業が実際に直面する生活実感を交えたお話もうかがった。独立から60年ほどで、資源のない小さな島国が世界有数の経済都市へと変わった。その歩みを数字と現場の両面から知るところから、今回のシンガポール視察は始まった。
数字だけでは見えてこない現地の姿を最初に押さえられたことで、その後に訪れた施設や企業で見聞きしたことの理解が深まったように思う。
参加者の声≪伊予銀行シンガポール支店≫
株式会社ハタダ 畑田 晃宏
シンガポールの現状を知る良い機会となった。全体的にお金の勢いを実感する一方で、レイヤーによって国としての課題も可能性も多い国であると感じた。嗜好品が高単価である点を踏まえ、自社の商品を海外展開していく先での一つの目標にしていきたい。
(2)マリーナバラージ(サステナブル・シンガポール・ギャラリー)
続いて訪れたのは、貯水と治水の役割を担う巨大な堰マリーナバラージと、併設のサステナブル・シンガポール・ギャラリーである。マリーナ湾を堰き止めて淡水の貯水池とし、同時に高潮や豪雨から市街地を守る。市街地のすぐそばにありながら、この2つの役割を1つの施設に担わせる発想は、限られた国土を最大限に使い切る同国らしいものだった。雨は多く降るものの水を貯える山がないこの国は、長らく隣国マレーシアからの輸入に水を頼ってきた。その制約を技術と計画で乗り越えてきた歴史が、展示からも伝わってきた。
水への取り組みは、街づくり全体にも及んでいる。緑化政策により屋上には芝生が敷かれ、空中庭園や街路樹が街を覆う。併設のギャラリーでは、水を確保するための技術開発や設備投資の歴史も紹介されており、水を巡る一つひとつの取り組みが、都市の景観にも経済にも結びついていることが見てとれた。
参加者の声≪マリーナバラージ(サステナブル・シンガポール・ギャラリー)≫
杉野製紙株式会社 神﨑 良子
シンガポールでは水をとても大切にしており、「水が集まるところにはお金が集まる」という考え方があるとガイドの方から伺った。ビルの中央に噴水を置いて水を湧かせるという風水の発想もあるが、水を大切にする考え方が国の隅々にまで根づいていることを感じた。
八幡浜官材協同組合 下田 智久
日本では当たり前にある水という存在を見つめ直すことができた。世界的に水不足や環境破壊が進むなかで、良質な水を必要とする半導体工場、豊かな水源が育む木材や農産物など、水はすべてのものづくりの根源であり、最大の差別化要素になり得ると感じた。自分たちにとって手に入って当たり前のものこそ、他国や競合他社から見れば手が出るほど欲しい地域資源であり、木材を扱う自社の強みなのだと気づかされた。
ヤマタカ株式会社 山之内 康介
初代首相リー・クアンユー氏一代で世界有数の経済大国へと変貌したというが、噂通りの発展ぶりには驚嘆した。生きる道をとことん進む大胆な政策や法整備について聞き、この先どうなっていくのか、まだまだ興味深いところである。
(3)シンガポール・シティギャラリー
午後は、同国の都市開発・計画を担当する機関が運営するシンガポール・シティギャラリーを訪れた。国土が狭いからこそ、どこに何を配置するかが厳密に計画され、その計画に合わせて地下鉄などの交通網が整備されている。展示では、資源の再利用計画をはじめ、限られた土地と資源を最大限に活かすための具体的な取り組みが数多く紹介されており、都市の成り立ちを歴史とともにたどることができた。
特に印象に残ったのは、この国がまだ完成形ではないということだ。今後は空港のさらなる拡張や、地下を通る物流の交通網の整備が計画されている。すでに世界有数の水準に達していながら、なお発展を目指し、国全体が1つの企業のように将来像を描いて手を打ち続けている。理想とする姿と現在とのギャップを、何をいつまでに埋めていくのかが計画されている——その姿は、規模こそ違え企業経営そのものだと感じた。
参加者の声≪シンガポール・シティギャラリー≫
有限会社大宮 井上 正太郎
天然資源が少なく国土も狭いにもかかわらず、世界有数の経済都市として発展していることに感銘を受けた。国営住宅の近くに駅を配置して住民の利便性を高めたり、自動車交通の増加に対応するため約700キロの自転車専用道路の整備を進めたりと、国をより良くしようとする姿勢が街づくりの随所に表れていた。
株式会社東燃 坂本 大樹
街全体の魅力を高めるためには、インフラ整備だけでなく、景観や清潔感、利用者目線でのサービス設計が重要であることを学んだ。訪れる人が過ごしやすい環境づくりが都市の価値向上につながっており、自社においても、お客さまが快適に利用できる空間づくりや継続的な環境整備が、ブランド価値や顧客満足度の向上につながると改めて認識した。
(4)SHIMANO (SINGAPORE) PTE. LTD.
最後の視察先は、自転車部品・釣具の製造販売を手掛ける株式会社シマノ(本社:大阪府)である。1973年に初の海外生産拠点としてシンガポールに進出し、視察した最新鋭工場は2022年に完成したばかりとのことだった。
進出の理由として挙げられたのは、クリーンな行政、良質で豊富な労働力、そして安定した政治・経済である。生産面では、シンガポールが開発と統括のハブとなり、量産はインドネシアのバタム工場が担うという役割分担が、合理的に設計されていた。
その中核をなす自動倉庫には度肝を抜かれた。耐荷重1トンの巨大な棚が整然と並び、約3,000種類にのぼる在庫を管理する。ピッキングでは、人が棚まで歩くのではなく、自律型ロボットと倉庫システムの連携によって「棚が動いてくる」イメージだ。
組織づくりの話も学びに満ちていた。透明性の高い評価制度、失敗を恐れないチャレンジを認める、自己研鑽には会社が費用を出す。また、かつて中国工場の改善時に、多国籍の管理職全員で一緒に工場の掃除することで、当事者意識を育てたというエピソードも印象的だった。
働く環境への配慮も徹底しており、騒音の大きい機械は防音設備の中に設置され、工場のほぼ全域に空調が効いていた。快適な環境が生産効率の向上とミスの減少につながるという考え方は、日本の現場にも持ち帰れる学びだった。
参加者の声≪SHIMANO (SINGAPORE) PTE. LTD.≫
株式会社プリべ石川 内田 捷裕
物価の高いシンガポールに拠点を構えるうえで、ランニングコストが高くならざるを得ないなか、技術開発拠点として高い水準の運営を進めている姿は、まさにこの地に最適化された経営だと感じた。また、チームとして機能するよう能力開発や人材育成に取り組まれているお話は、ぜひ参考にしたい考え方だった。
フジ広告株式会社 小川 睦人
製造ラインを定期的にメンテナンスすることで突発的な機械故障を回避し、多種多様な在庫の管理も自動化されている。理想的な管理体制が印象的だった。
カナエ紙工株式会社 三木 悠史
「これからの時代は価格ではなく、価値で競争する」という言葉に強く共感した。自社もコーヒーフィルターを価格競争で売ってきたが、それも難しくなり、今後は付加価値の高い製品に切り替えたいと考えている。改めて自社の方向性を確認できた。
おわりに
タイでは「成長する都市の勢い」を、シンガポールでは「計画的に成熟した都市づくり」を、それぞれ肌で感じた1週間だった。
そして今回、多くのセミナー生が口にしたのが「危機感」である。かつて「物価の安い国」だったタイの物価はすでに日本と同等で、シンガポールとの差はさらに大きい。円安の影響もあるが、それだけでは説明のつかない現地経済の勢いが、そこにはあった。アジアの主要都市はどんどん豊かになっており、日本の購買力と経済的地位は相対的に低下しているのかもしれない。情報が手軽に手に入る時代だからこそ、現地に行き、見て、聞いて、感じることの価値を、全員が再認識した。
また、訪問先のすべての企業に共通していたのは、業種や規模を超えた「仕事へのプライドとポリシー」だった。現地の文化や価値観を理解し、人を育て、仕組みをつくり、品質を守り抜く。海外という厳しい環境で挑戦を続ける駐在員の姿に背中を押されたセミナー生も多かったのではないだろうか。
職種も会社の規模も異なる35期生が、同じ視察先で全く違う気づきを持ち帰り、移動のバスや夜の食事の席でそれを共有し、意見をぶつけ合う——まさに研修旅行の醍醐味である。1週間を共に過ごすなかで深まった同期の絆とともに、今回得た学びと危機感を、これからの経営に生かしてもらえることを期待したい。
最後になりましたが、この度の研修旅行に際しては、見学させていただいた企業の皆さまから貴重な情報や多大なご支援、ご協力をいただきました。本記事を借りて、厚く御礼申し上げます。
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