県内企業の約4割が生成AIを利用中
5つのプロセスで高度利用に向けた社内展開を
~県内企業における生成AI利用状況に関する調査~
公開日:2026.07.29
INDEX
【要旨】
1.県内企業の約4割が生成AIを利用しており、約3割は利用を検討しているが、利用対象業務は単純作業が中心である。
2.県内企業の約9割が生成AIに期待感を示す一方で実際の利用が約4割にとどまる背景には、セキュリティ面と人材面で課題を抱えていることや、小規模企業では生成AI利用に対する不安の大きさがみられた。
3.生成AIの目覚ましい進化を踏まえると、効率化目的から高度化へと段階的に社内展開していくことが望ましい。そのためには、経営者が明確に推進レベルを示すことが求められる。
4.変化に対して柔軟な中小企業こそ、生成AIの登場は大きなチャンスとなり得る。自社にとっての必要性とリスクを適切に見極めながら、生成AIの高度利用に向けた取り組みが県内企業のさらなる成長のきっかけとなることを期待したい。
はじめに
近年、生成AI(ジェネレーティブAI)はテキスト生成や画像生成、プログラムコード作成など幅広い分野で飛躍的な進化を遂げている。2022年11月のChatGPT公開以降、高度な生成AIが開発され、ビジネス現場における活用が急速に拡大している。そこで今回は、拡大を続ける生成AIに中小企業はどう向き合えばよいか、アンケート結果から見えた現状と課題を基に今後の方向性を探る。
生成AIの潮流
世界の生成AI動向
今年1月、米国アンソロピック社が提供する「Claude Cowork」の新機能が発表されると、SaaS関連株の時価総額が1週間で1兆ドル近く消失したことが話題になった。従来のAI(人工知能)が既存データから「正しい答えを出す」ことを得意とし、現在主流のチャット型生成AIが人間の指示に基づいて新しい成果物を生み出すのに対し、アンソロピック社が発表したエージェント型生成AIは人間の指示なく自律的な判断と実行を可能にする。そのため、生成AIの進化への期待感と既存SaaSモデルへの危機感が同時に高まったのである。
生成AIとその他AIの市場規模を2020年比の推移でみると、ChatGPTが登場した2022年を境に生成AIがその他AIを上回って伸び始めた(図表-1)。生成AIの収益化への不透明感から市場規模自体はその他AIの方が大きいが、期待感の高まりを背景に、しばらくは生成AIが世界のAI市場をけん引する構図が続く。
生成AI利用における日本の現状
総務省が2025年7月に公表した「令和7年版情報通信白書」によると、日本の現状として以下の問題点が指摘されている。
1.利活用の遅れ
個人の生成AI利用率は、日本の26.7%に対し、中国81.2%、米国68.8%、ドイツ59.2%と差は明らかである(図表―2)。企業の業務利用率をみても、日本の55.2%に対し、中国・米国・ドイツはいずれも9割を超えている(図表―3)。
2.活用の「質」の差
利用率だけでなく、その質にも差がある。日本企業は生成AIを「業務効率化や人手不足の解消につながる」ツールと位置付けているのに対し、米国・ドイツ・中国では「新規顧客獲得」や「新たなイノベーション創出」など高付加価値化や事業拡大につながる要素を重視する傾向がみられる(図表―4)。
中小企業における生成AI活用の遅れ
中小企業においても、徐々に生成AIの導入が進みつつある。東京商工リサーチの調査によると、中小企業での組織的な利用率に上昇傾向はみられるものの、大企業との差は拡大している(図表―5)。
生成AIの登場当初は大企業が利用するものというイメージが強かったが、近年の急速な発展により利用領域が拡大している今、生成AIには効率化だけでなく、顧客体験の向上や新たなビジネス機会の創出など、価値創造への期待が高まっている。変化に対して柔軟な中小企業こそ、生成AIの利用は成長の大きなチャンスとなるだろう。
アンケート結果
県内企業の生成AI利用状況を把握するため、以下の内容でアンケートを実施した。
生成AIの利用状況
1.全体
生成AIの利用状況を尋ねたところ、全体の39.5%が「利用している」と回答し、「今後利用を検討する」(36.1%)と合わせて75.6%が利用または利用を検討している。利用または検討の予定がない企業は約4分の1にとどまった(図表―6)。
2.業種別
業種別(回答企業数10社未満を除く)でみると、製造業では「食料品」「金属・造船・機械」、非製造業では「卸売」「小売」で「利用している」と回答した割合が比較的高い(図表―7)。要因として、POSデータの蓄積や図面のデジタル化、サプライチェーン最適化などのデータ整備が進みAI学習がしやすいことが考えられる。一方、「繊維」「紙・パルプ・紙加工」「建設」「運輸」では「今後利用を検討する」割合が比較的高い。必要性は感じているものの、製品や現場の多様性によるデジタル化の遅れ、設備更新の難しさなどから、取り組みが後回しになっている可能性が考えられる。
3.従業員数別
従業員数別では、規模が大きくなるほど「利用している」割合が高く「101人以上」では約6割を占める。一方、「利用していないし検討する予定もない」割合は規模が小さいほど高く、「20人以下」では約4割に上る(図表―8)。
利用の推進レベル
「利用している」「今後利用を検討する」と回答した企業に推進(予定)レベルを尋ねたところ、全体では「全社で利用推進」が13.7%、「業務毎に利用推進」が31.5%となり、合わせて45.2%が組織的に推進している(図表―9)。また、約3割は「明確な定めはない」と回答しており、社員任せの実態がうかがえる。利用状況別にみると、すでに利用している企業では「全社で利用推進」(24.6%)と「業務毎に利用推進」(36.5%)を合わせて61.1%と全体を上回る。一方、検討中の企業では、回答時点で組織的な利用推進を予定しているのは27.8%にとどまり、32.2%がまだ明確に定めていない。
従業員数別では、規模が大きいほど組織的に推進している傾向がみられた。
利用している具体的な業務
利用または利用を検討している企業に具体的な利用(予定)業務を尋ねたところ、全体では「文書・メールの作成」が73.4%と最も高く、次いで「情報収集・アイデア出し」(58.5%)、「画像・デザイン生成」(34.0%)が続き、単純作業に分類される業務が上位に並ぶ(図表―10)。
推進レベル別(「検討中」「その他」を除く、以下同)でみると、単純作業の割合が高い点は共通しているが、全社で利用推進の企業では社内展開が必要な業務や高度化につながる業務での利用割合が高い傾向がみられた。
生成AI利用の効果
すでに利用中の企業に効果を尋ねたところ、全体では「業務時間の短縮」が82.5%と最も高く、上位には作業効率化に分類される効果が並ぶ(図表―11)。
推進レベル別でも同様の傾向がみられ、作業の効率化は生成AIの最も分かりやすい効果といえる。業務毎に利用推進の企業では「社員の負担軽減」が特に高く、現場の業務負担に応じた導入姿勢がうかがえる。一方、高付加価値化に分類される効果は全般的に低い結果となった。
生成AI利用上の課題
利用中の企業に課題を尋ねたところ、全体では「セキュリティ・情報漏洩が不安」(63.5%)と「使いこなせる社内人材が不足」(59.5%)が他の項目を大きく上回った(図表―12)。安全性と人材が大きな課題となっている。
推進レベル別にみると、全社で利用推進の企業では社内人材の不足が最も多い。積極的に推進したいが社内に人材がいないというジレンマがうかがえる。業務毎に利用推進の企業では、セキュリティ面と人材不足に次いで品質とコストへの課題意識が比較的高かった。効果を得たい業務を特定しているからこその課題と考えられる。
人材育成への取り組み
課題の上位2項目のうち社内人材の育成について、すでに利用している企業に尋ねたところ、全体では「社員の自主学習に任せている」が52.4%で最も高い(図表―13)。社員任せの現状は社内にAIを使える人材と使えない人材を生み、企業と社員の双方にとって逆効果となる可能性がある。
推進レベル別にみると、全社で利用推進の企業では「外部セミナー・勉強会への参加を支援」(42.4%)、「社内研修を定期的に実施している」(27.3%)の割合が高く、一定の育成意識がみられる。一方、明確に定めていない企業では、定期的な社内研修の実施はなく、また「特に取り組んでいない」が約3割を占めるなど、人材育成への取り組みは推進レベルによる差がみられた。
生成AI利用のための支援策
利用(検討)している企業が必要とする支援策について、全体では「分かりやすい活用事例・情報提供」が53.5%と最も高く、費用面やセキュリティ面を上回る(図表―14)。活用事例等へのニーズの高さと企業単独での入手の難しさがうかがえる。
推進レベル別にみると、全社で利用推進の企業では活用事例等に次いで約半数が「AI人材の育成支援」を求めている。積極的に推進したいが故の支援希望といえる。業務毎に利用推進の企業では、費用面への支援希望が多く、コストへの課題意識の高さを反映した結果となった。
利用または利用を検討しない企業の現状
1.利用(検討)しない理由
利用または検討する予定がない企業に理由を尋ねたところ、全体では「業務上、必要性を感じない」が65.4%と最も高く、他の項目を大きく上回る(図表―15)。
従業員数別にみると、100人以下の企業では「業務上、必要性を感じない」が最も多い一方、「101人以上」ではセキュリティ面と社員のスキル面が大きなネックとなっている。
2.利用(検討)するための条件
利用または利用を検討するための条件を尋ねたところ、全体では「同業他社の成功事例を知れば」が56.4%と最も高く、次いで「無料・低コストで試せる環境が整えば」(34.6%)が続く(図表―16)。他社事例等を自社に置き換えた場合のコストと効果を検証できる機会が必要だろう。
従業員数別では、「101人以上」の66.7%が「セキュリティ面の不安が解消されれば」と回答しており、利用していない理由を反映した結果といえる。また「20人以下」では「何があっても利用しない」が約2割に上った。
生成AIの将来性に対する考え方
生成AIの将来性に対する経営者の考え方を尋ねたところ、全体では「業務効率化への期待」が71.8%と最も高い(図表―17)。「新しい価値創造への期待」(11.7%)、「ビジネスチャンス拡大への期待」(7.5%)と合わせて約9割は期待を感じている。こうした期待感を実際の利用につなげると同時に、新しい価値創造やビジネスチャンス拡大への期待が高まることが望まれる。
従業員数別では、規模が大きくなるほど期待が高くなる一方で、「20人以下」では不安が約2割に上る。小規模企業の「何があっても利用しない」という判断につながっていると考えられる。
利用状況別にみると、利用または検討している企業の94.9%が期待を示し、不安はわずか5.1%に対し、利用も検討もしない企業では期待が78.1%にとどまる一方で不安は21.9%に上る(図表―18)。生成AI利用のすそ野を拡大するためには、外部支援機関等によって「期待9割、実際の利用4割」というギャップを埋めるとともに、小規模企業を中心とした不安を解消していくことが不可欠といえよう。
中小企業における生成AI利用の方向性
参考事例
ここまでの結果から、県内企業には生成AI利用に対する前向きな姿勢と、効率化面での着実な効果がみられた。しかしながら、組織的な利用は一部にとどまっており、利用または利用を検討している企業の約3割は推進レベルを定めていない。社員任せのままでは効率化以上の効果は期待できず、「新しいものを創り出す」という生成AI最大の特徴を生かすことができない可能性が高い。企業が生成AI本来の効果を享受するためには、組織的な推進によって利用の質を高め、新たな価値創造を実現していく必要がある。
そこで、組織的に利用推進している参考事例として、「全社で利用推進」と「業務毎に利用推進」それぞれの企業の取り組み内容を紹介する。
<全社で利用推進>:アビリティーセンター株式会社 様(その他サービス / 従業員数101人以上)
【生成AI利用のきっかけ】
・1年程前、生成AIが一般的になってきた頃に将来の社員の働き方に影響する技術だと感じた。同時に、今後のクライアントへの提案力を左右する技術にもなり得るとの認識を持った。
【推進方法】
・方針決定など経営判断に関わるため社長自身が推進者となり、生成AIを試験導入した際に興味を持った社員から公募制で選抜したメンバー4名とプロジェクトチームを立ち上げた。システム関連部署だけに任せるのではなく、現場業務に近いメンバーを中心とするプロジェクトとした。
・導入ツール自体はクラウド型の汎用的なものだが、セキュリティ面と人材面に関して効果的な取り組みを検討する部分で外部コンサルの支援を受けた。
・初めから全社展開方針としていたため、予め利用ルールなどのガイドラインを設定し、事前研修として8時間の初期教育とワークショップを実施した。
【現時点での効果】
・導入して半年後に社内アンケートを実施したところ、①現在の業務の時短と効率化②作業時間は変わらないが品質の向上、の2点で効果があった。特定の業務、特定のパターンで繰り返し利用するケースで効果が上がっている。また、属人化していたノウハウをプロンプトに埋め込むことで作業品質のバラツキが改善された。
【現在の課題】
・社員によって利用度に差がある。プロジェクトチームで用途を特定したプロンプトを用意するほか、社内の活用事例や役立つ情報の共有、職種ごとの勉強会などに取り組んでいる。誰にとっても使いやすくて便利なものにすることがプロジェクトチームの今の主な役割となっている。
【今後の展開】
・業務プロセスに生成AIを標準的に組み込んで、人と生成AIの共存を図っていく。例えば、情報の整理や適切なタイミングでの情報発信、ツール作成などに生成AIを利用することで、社員は対人関係構築や顧客理解など、人にしか出来ない業務に今以上の時間を掛けられるようになる。働き方の質と顧客への提案力を高めるために、経営テーマとして生成AIの利用に取り組んでいる。
<業務毎に利用推進>:三原産業株式会社 様(小売 / 従業員数101人以上)
【生成AI利用のきっかけ】
・現場の人手不足で幅広い声掛け営業が難しいため、顧客分析による営業活動の効率化と高度化の必要性を感じていた。そこで現場から、部門間の顧客管理一元化と売上データの可視化ができるシステムの導入を提案したところ経営者にも同じ思いがあり、データ分析ソフトウェアの導入に至った。
【推進方法】
・ソフトウェア導入にあたり全社的に体験会を実施した。社内の反応は「こういう便利なものなら使ってみたい」という前向きなものだったので、まずは一番社員数が多いカーライフサポート部門が先行して体制整備と成功事例を積んだうえで社内展開する方針とした。
・人材は各店舗の店長を対象に研修を実施し、今は中心的な役割を果たしている。
【現時点での効果】
・生成AIがサポートする機械学習(AFE)によって顧客の傾向を可視化できるようになったことで、勘と経験に頼っていた営業活動がデータとして裏付けられ、各店舗で再現性が高まった。
・ターゲットを絞った適切なキャンペーンが可能となり、DMへの回答率が従来の10%前後から20%弱にまで向上した。時間と人手がないなか販促企画を考えないといけないという社員の心理的負担が軽減され、モチベーションや働き方も変わった。
【現在の課題】
・若手社員は新しい方法への抵抗は比較的低いが、年代によって捉え方に若干の差がある。シニア社員を含め、多くの社員に使ってもらって便利さを感じてもらうことが一番の対策だと考える。
【今後の展開】
・顧客データと社内データを紐付けることで、従来とは違う角度での顧客分析や販促企画が可能となった。身近な業務から生成AIの利便性と効果を社内向けに発信することで、継続的な利用を目指す。
今後の方向性と5つのプロセス
企業が置かれている事業環境によって生成AIを「使わない」という選択があるのは当然のことだが、その一方で業務上のリスクや将来への不安を理由に敬遠するだけでは企業成長のチャンスを逃している可能性がある。生成AIの目覚ましい進化を踏まえると、事例のように経営者が推進レべルを明確に打ち出し、レベルに応じて社内体制を整備しながら効率化から価値創造に向けた高度化へと段階的に社内展開していくことが求められる。
そのための理想的な生成AIの利用について、事例と生成AI利用をサポートする専門家へのヒアリングから5つのプロセスで整理する。
プロセスの中で最も重要なのは経営者による明確な意思表示である。生成AIの成果物を判断し経営上の決定を下すのは経営者であり、経営者の積極的な関与を示すことは社員の安心感につながる。また、プロセス②のセキュリティ体制構築の観点からも明確な「推進レベル」は欠かせない。
プロセス④に必要な人材育成について、進化の早いAI分野では、自動車の運転と同じように基本を学んだ後は実体験や事例の積み重ねが最も効率的な学習方法である。社内に専門人材がいない中小企業でも、プロセス③と④を定着させることで、時間は掛かるが十分対応が可能である。
予測される将来への備え
現在のチャット型生成AIに続いて、業界ではエージェント型、次にフィジカル型へと進むことが予測されている。専門家へのヒアリングでは、「次世代技術が中小企業に本格普及して人手不足を代替するようになるのは、コスト面などから数年先になる」との見通しである。そのため、今焦って先端技術を追ったり不安を感じたりするのではなく、上記5つのプロセスによってデータ整理や運用文化、人材育成など組織の土台を固めることが最良の備えとの見解である。
また、世界のAI市場はエヌビディアやアンソロピックなど主要企業の動向に左右される傾向を強めている。経営者には常に世界の潮流を先読みする視点も必要だろう。
おわりに
中小企業にとって生成AIは人材面や費用面での導入ハードルに加えて、生成AIそのものに対する安全性への懸念や不安が存在している。一方で、生成AIがカバーする領域が拡大しつつある今、新たな価値創造への期待も高まっている。自社にとっての必要性とリスクを適切に見極めながら、生成AIの高度利用に向けた取り組みが県内企業のさらなる成長のきっかけとなることを期待したい。
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