県内企業の約7割が賃上げ予定するも賃上げの負担に対して約6割は正社員確保が進まず ~2026年度賃金改定動向に関する調査~
公開日:2026.03.31
要旨
1.県内企業の72.3%が2026年度の賃上げを予定している。しかしながら、長引くコスト高や価格転嫁の遅れから先行きに対して厳しい見方の企業が多く、高い水準の賃上げには息切れ感が見え始める結果と なった。
2.具体的な賃上げ方法では、最も積極的な賃上げの「定期昇給+ベースアップ」が49.2%と最も高く、「ベースアップのみ」(16.6%)と合わせると約7割の企業がベースアップを予定している。
3.「ベースアップ」の要因では、「物価高への対応のため」と「採用難や離職防止」の2項目が他の項目を大きく引き離しており、依然として防衛的要因からのベースアップが続いている。
4.4年目を迎える賃上げの流れに対して、約9割の企業が負担を感じている。賃上げせざるを得ない状況が続くなか、全体の約6割は賃上げの想定通りに正社員の確保が進んでいない。
5.持続的な賃上げに向けて、企業は引き続き価格転嫁や生産性向上に取り組みつつ、賃上げが負担感だけにならないよう、人材確保に効果的に結び付けていくことが今後の新たなポイントになるだろう。
はじめに
日本の賃上げ機運の高まりが本格化して3年目となった2025年春闘は、2年続けて5%を超える賃上げ水準となった。また、2025年10-12月期の日本の実質GDP成長率は前期比+0.1%(速報値)となり、2四半期ぶりのプラス成長に回帰したものの、個人消費は小幅上昇にとどまっている。日本経済が持続的に成長するには内需の成長が欠かせず、これまで以上に中小も含めた賃上げ動向が重要な要素となる。
そこで、県内一般事業所の賃金改定動向と賃上げの持続可能性を探るため、アンケートを実施した。
賃上げ状況
1.引き続き中小企業で「6%以上」を目指す
日本労働組合総連合会(以下「連合」)の集計によると、2025年春闘での賃上げ率は全体で5.25%と目標であった「5%以上」を達成したが、中小企業に限ると4.65%にとどまった(図表-1)。賃上げの裾野を広げ、消費を拡大するには中小企業への波及が不可欠であることから、連合は2026年春闘でも引き続き中小企業は「6%以上」を目標としている。
2.実質賃金の推移
愛媛の実質賃金の推移をみると、2025年は年間を通して対前年比マイナスが続いており、物価高の影響がみられる(図表-2)。2月21日に発足した高市政権は物価高対応を最優先課題に位置づけている。物価対策で実質賃金の一時的なプラス転換は期待されるが、しっかりと定着化させるためには、持続性ある賃上げが大きなカギといえよう。
アンケート概要
県内企業の賃金改定動向を把握するため、以下のアンケートを実施した。なお、アンケートはすべて正規雇用社員の賃金を対象に回答を得た。また、本調査では、平均月給の増額改定を「賃上げ」とする。
アンケート結果 ~2026年度の改定動向~
改定実施の有無
【全体・部門別】
全体の72.3%が2026年度の賃上げを予定している(図表-3)。2025年度の賃上げ実績(90.6%)からは約18ポイントの低下だが、前年調査でも見通し段階の賃上げ予定は77.7%であったことから、現時点での慎重姿勢の表れと考える。部門別では、製造業の約8割、非製造業の約7割が賃上げを予定しているが、全業種で2025年度実績からは低下した。製造業では原材料費やエネルギーコストの高止まり、非製造業では人件費の原資確保のために値上げした際の顧客離れを懸念する声が多く聞かれ、「据え置き」が増加する結果となった。
【従業員数別】
企業規模が大きいほど賃上げ予定の割合が高くなる傾向がみられたが、全ての規模で2025年度実績を下回った(図表-4)。特に「20人以下」では、30ポイント近く下回っている。小規模非製造業者からは、「賃上げできるよう前向きに考えているがコスト高に対して粗利の確保が難しい」や、「物価高で既存店舗の利益率が低下するなかでの賃上げは難しい」といった声があり、「据え置き」が増加する結果となった。また、「未定」が前年調査(10.1%)からほぼ倍増しており、様子見姿勢がうかがえる。
【地域別】
東中南予すべての地域で、賃上げ予定は約7割となった(図表-5)。2025年度実績に比べて、東予と南予で「据え置き」が約8ポイント増加した。
賃上げ予定企業の賃上げ率
【全体・部門別】
全体では「3%台」が27.2%と最も高く、次いで「2%台」(21.5%)が続く(図表-6)。「1%未満」から「3%台」までの割合が68.2%と2025年度実績(60.8%)より約8ポイント上昇する一方で、「4%台」以上の割合は低下した。また、今春闘でも連合が中小企業の目標として掲げる「6%以上」は4.6%にとどまり、前年度実績(11.0%)を大きく下回った。
【従業員数別】
「20人以下」と「101人以上」は「2%台」、「21~50人」「51~100人」では「3%台」が最も多い(図表-7)。全体と同様に、「3%台」までの割合が上昇する一方で、「4%台」以上の割合が低下する傾向がみられた。
【地域別】
東予と南予は「3%台」、中予は「2%台」がそれぞれ最も多い(図表-8)。また、全ての地域で、「3%台」までの割合が上昇する一方で、「4%台」以上の割合が低下する結果となった。
2026年度の賃上げ方針
2026年度の賃上げ方針を2025年度賃上げ率の実績別にみると、「3%台」までは「同程度」が最も多く、一部には「高め」とする企業もあった(図表-9)。一方、2025年度実績が「4%台」以上では、賃上げ率が高かったほど「低め」が多い。その結果、2026年度見通しにおいて、「1%未満~3%台」までの上昇と「4%台」以上の低下につながったものと考えられる。
高い賃上げ率を維持できている企業へのヒアリングからは、「これまでが他業界に比べて低かったので収益が上がった分は出来るだけ社員に還元したい」(小売)や、「価格転嫁に加えて受発注のオンライン化などの業務効率化によって生産性が改善した」(卸)、「今は人件費負担が大変でも将来への投資と考えている」(その他サービス)などの声が聞かれた。
賃上げの具体的な内容(複数回答)
【全体・部門別】
賃上げ予定企業の具体的な方法では、最も積極的な賃上げの「定期昇給+ベースアップ」が49.2%と最も高い(図表-10)。「ベースアップのみ」(16.6%)と合わせると、約7割の企業がベースアップを予定している。また、「初任給引き上げ」(25.9%)が前年(11.9%)から大きく伸びた。
部門別でみても、製造業、非製造業ともに約5割が「定期昇給+ベースアップ」と回答し、「ベースアップのみ」と合わせて6~7割がベースアップを予定している。
【従業員数別】
「20人以下」と「101人以上」で「定期昇給+ベースアップ」の割合が最も高い(図表-11)。また、「初任給引き上げ」は企業規模が大きくなるほど割合が高く、「21~50人」「51~100人」では前年実績比10ポイント以上増加している。初任給引き上げ競争の影響が小規模企業にまで及んでいるようだ。
ベースアップを実施する要因(複数回答)
「ベースアップ」を実施する要因では、「物価高への対応のため」が84.3%と最も高い(図表-12)。前年の結果を約8ポイント上回っており、企業は長引く物価高による従業員への配慮を最優先にしている。次いで「採用難や離職防止」が73.2%となり、この2項目が他を大きく引き離す。
一方、「企業業績の改善」(14.2%)や「価格転嫁の進展」(10.2%)などの積極的要因は前年並みの1割程度にとどまっており、依然として防衛的要因からのベースアップが続いている。
「据え置き」とする要因(複数回答)
見通しを「据え置き」とした要因では、「現在の月給が適正な水準」が45.7%で最も高い(図表-13)。また、「価格転嫁が不十分」(37.1%)と「今後の賞与支給等で対応」(25.7%)が前年を大きく上回った。コスト上昇や賃上げ分に対する価格転嫁が不十分なため、給与テーブルを引き上げるベースアップではなく業績に応じて「今後の賞与支給等で対応」しようとする姿勢がうかがえる。
アンケート結果 ~賃上げの負担度合いと正社員確保について~
賃上げによる負担度合い
4年目を迎えた賃上げの負担度合いを尋ねたところ、全体では27.8%が「大いに負担」と回答しており、「やや負担」(61.0%)と合わせると88.8%が負担を感じている(図表-14)。部門別、従業員数別でも同様の傾向がみられた。ある機械製造業からは、「賃上げしないと人材確保が出来ないため毎年賃上げしているが、それに見合うだけの生産性向上が達成出来ておらず、将来的に利益の押し下げ要因になることを危惧している」との声があった。
賃上げと正社員確保の関係性
【全体】
今回の調査で明らかなように、ベースアップ要因の約7割は「採用難や離職防止」だが、賃上げと正社員確保の関係性を尋ねたところ、「賃上げをしても確保できない」が31.8%で最も高く、「賃上げの想定よりやや不足している」(25.1%)と合わせて約6割が想定通りに進んでいない(図表-15)。業種別にみると、「建設」や「小売」「医療・福祉」など人手に頼らざるを得ない業種で確保できない傾向がより顕著にみられた。ある建設業からは、「仕事の大変さから敬遠される業種のうえに、小規模企業では正社員確保はさらに難しい」といった切実な声が聞かれた。
【従業員数別】
企業規模に関わらず「賃上げをしても確保できない」と回答した割合は約3割を占め、共通した問題といえる(図表-16)。また、規模が小さいほど賃上げと正社員確保を関連付けていない割合が高く、無理な賃上げ競争は避けている可能性がある。
アンケート結果 ~今後の見通しについて~
来年度以降のベースアップ実施見通し
全体では、「来年度以降も継続する予定」が35.2%で前年調査(31.5%)を上回った(図表-17)。一方で、「未定」が約8ポイント増加している。回答企業が異なるため単純比較はできないが、「時期は未定ながら状況をみて検討したい」が前年比で約13ポイント低下していることから、現時点で来年度を見通せる企業と見極めたい企業に分かれた可能性がある。
今後のベア実施のための判断材料(複数回答)
全体では、「自社の業績見通し」が79.4%と最も高く、次いで「採用動向・労働力確保状況」(55.8%)が続く(図表-18)。それぞれ前年調査より増加しており、特に採用動向は約13ポイント上回る。
賃上げ動向別にみると、賃上げの有無に関わらず「自社の業績見通し」が最も多く、「据え置き+未定」の企業では83.8%と全体を上回る。また、業績見通しに直結する「価格転嫁の進展状況」が約半数を占めた。一方、賃上げ予定企業では採用動向が約6割となり、全体を上回った。
アンケート結果 ~今後の賃金水準と雇用の方針について~
全体では、「業界・地域で平均的な水準だが持続的な賃上げ」が60.3%で最も高い(図表-19)。賃金水準の強弱はあるものの、全体の約7割が持続的な賃上げ方針としている。正社員の確保度合い別にみると、想定通りに進んでいる企業ほど持続的な賃上げ方針の割合が高く、想定通りの企業では4分の1が「業界・地域でトップクラスの水準で持続的な賃上げ」と回答している。
想定通りに確保できている企業では、「賃上げと社員教育をセットで実施して定着率が改善」(小売)や「これまでの昇給状況や賞与額など募集記事の内容を充実」(建設)、「処遇改善と合わせて先を見据えたキャリア形成の提示」(その他サービス)などの取り組みがみられた。賃上げを経営者の明確なメッセージを伝える機会とすることで既存社員に安心感を与え、さらには人材確保にもつながっていることが持続的な賃上げ意欲を高めているようだ。
まとめ
県内企業における2026年度の賃金改定動向は、約7割が賃上げを予定し、賃上げ機運の定着もみられた。しかしながら、本格的な賃上げも4年目を迎え、コスト高や価格転嫁の遅れが続くなか、高い水準の賃上げには息切れ感が見え始める結果となった。アンケート後の中東情勢次第では、さらにその傾向が高まる可能性もある。また、防衛的要因から賃上げせざるを得ない状況でありながら、負担感の高まりに対して想定通りの人材確保が進んでいない実態も明らかになった。
持続的な賃上げ実現のためには、引き続き業績見通しが大きなポイントとなるが、今回の結果からは、人材確保の成否が賃金動向を左右する要因となりつつある傾向もみられた。賃上げ予定企業の約6割が採用動向を意識していることからも、賃上げを人材確保に効果的に結び付けていくことが今後の新たなポイントになるだろう。
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