観光DX推進による地域経済活性化プロジェクトの取り組み
~上信越高原国立公園志賀高原(長野県下高井郡山ノ内町)の事例から~
公開日:2025.09.22
全国の地方銀行9行による「地域再生・活性化ネットワーク」の共同企画として、各地の地域活性化に向けた取り組みをご紹介するコーナー。今回は、観光DX推進による地域経済活性化プロジェクト(長野県下高井郡山ノ内町)の取り組みを紹介します。
INDEX
暖かな春の訪れとともに、色鮮やかな植物が美しい姿を見せる志賀高原。1980年に「環境保全」と「自然と人間社会が共生」する自然エリアとしてユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に登録されるなど、雄大な自然と貴重な動植物が数多く残る。98年には長野冬季オリンピックの会場にも選ばれるなど国際的なスノーリゾートとしても発展してきた。
今回は志賀高原のさらなる躍進に向けて、2022年から本格始動した観光DX(デジタルトランスフォーメーション)推進によるさまざまな誘客施策を展開する事例について紹介したい。
自然と人の調和のとれた「持続可能な観光地開発」
長野県北部に位置し、群馬県・新潟県に接する上信越高原国立公園志賀高原には、守り神である大蛇を祀る「大沼池」のほか、大小60近い池に、サンショウウオなどが生息する「四十八池湿原」など、美しい湖沼や手つかずの原生林・湿原植物が数多く存在する。こうした貴重な自然とともに国際的なスノーリゾートとして愛されてきた背景には、地元住民団体による共同管理の仕組みである「入会(いりあい)」の伝統的な慣習を守り、自然と人の調和のとれた「持続可能な観光地開発」を実践してきたことがある。
観光DX推進による地域経済活性化プロジェクトがスタート
コロナ禍後の本格的な観光需要の回復を見据え、志賀高原は、22年にDXによって観光地の地域経済活性化を目指す観光庁の実証事業のモデル地域に応募し選定された。プロジェクトの推進に当たり、志賀高原観光協会を中心に、志賀高原旅館組合や(一財)長野経済研究所などで構成する志賀高原観光DX推進コンソーシアムを立ち上げ、地域一体となった取り組みがスタートした。
実証事業で構築したのが、志賀高原観光協会公式Webサイト(以下、公式サイトという)を活用した宿泊予約と顧客情報の収集・利活用を一元管理するプラットフォームである。これまで宿泊予約については、自社の直販サイトが整備されている宿泊事業者は少なく、OTA(オンライン旅行代理店)や旅行代理店利用によって生じた販売手数料等の負担が課題になっていた。また、顧客情報の収集・利活用についても、各宿泊事業者にそうした基盤がなかったために、顧客ニーズに応じた効果的な宿泊プランの造成や誘客施策の展開、その検証ができない状況にあった。
収益面の改善と顧客データ分析を基にしたキャンペーンが可能に
今回の実証事業で新たなプラットフォームを構築したことで、公式サイトからの宿泊予約が可能となり、収益面の改善(現在、プラットフォームを通じた宿泊予約の販売手数料は徴収していない)が図られた。
また、宿泊予約を起点とした顧客情報の収集・利活用については、新たに立ち上げた会員制度「CLUB SHIGA KOGEN(図表−1)」(25年1月末時点の会員数7,774名)への誘導により蓄積した顧客データベースの分析を基に、会員のリピートに向けた効果的なキャンペーン施策が可能となった。
現在はエリア内の多くの宿泊施設が、新たな販売チャネルの1つとして、この公式サイトを介した宿泊予約を利用している。公式サイトへのアクセス数や会員のリピートは順調に伸び、24~25年冬のサイト販売金額は当初掲げた目標を大幅に上回る効果を発揮している。
公式サイトと連携した新たな回遊支援サービス
24年12月からは志賀高原回遊支援サービス「SHIGAKOGEN NAVIGATOR(図表−2)」を開始した。これにより、デジタルマップ上で施設情報(レストラン、宿泊施設、温泉、ショップなど)に加え、リフト運行状況やゲレンデ情報がリアルタイムで把握できるほか、目的地までの最適なルート案内を受けることができる。「志賀高原ファン」にとって、広大な志賀高原を存分に楽しめ、新たな魅力や価値を再発見するための欠かせないサービスとなっている。
雄大な自然や圧倒的な美しさを誇る志賀高原に、国内外の多くの人が魅了されてきた。さらなる発展に向けて、地域が一体となった観光DXの推進による取り組みに今後も注目していきたい。
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