「愛媛船主」の外航船舶保有隻数は増加するも国内建造比率は低下傾向
~2024年12月現在の愛媛の船主の外航船保有状況~
公開日:2025.09.22
愛媛には外航船主、すなわち外航船のオーナーが、今治市を中心に100先ほど存在する。IRCでは、世界的な情報機関であるS&P Global(旧IHS Mark it)のデータを使用し、実質的な国内船主および愛媛の船主の外航船保有状況を調査してきた。これまで、2000年から2020年まで6回実施しており(直近は2021年5月号に掲載)、今回は2024年12月時点のデータを集計・分析して取りまとめた。なお、データの制約上、すべての船舶を網羅しているわけではないことを了承いただきたい。
INDEX
国内船主の外航船保有隻数と愛媛のシェア
2024年の国内船主の外航船保有隻数は、3,977隻だった。都道府県別にみると、東京が最も多く1,772隻(構成比44.6%)、愛媛が1,385隻(同34.8%)、広島が310隻(同7.8%)、大阪が131隻(同3.3%)などとなった(図表−1)。東京は、大手海運会社(オペレーター)やリース会社が自社船を大量に保有しているケースが多い。一方、愛媛は、コロナ禍を経てさらに隻数・シェアを伸ばしており、純粋な船舶オーナーとしての「愛媛船主」の保有隻数と存在感は圧倒的である。
なお、2020年と比較すると、国内全体の保有隻数は314隻、8.6%増加した。愛媛は2020年と比較すると186隻、15.5%増加し、構成比(シェア)も2.1ポイント上昇した。
「愛媛船主」の保有船の動向
保有隻数と船腹量の推移
愛媛の船主の保有隻数は、一貫して増加している。その理由には、①堅調な海運市況や歴史的な円安を背景に、資金力を増した船主が投資を拡大したこと、②内航船主や舶用機器メーカーなどが友好関係にある外航船主や金融機関・商社などに後押しされて新たに外航海運へ進出したこと、などが挙げられる。
船腹量の推移をみると、2024年の総トン数(G/T)1)は6,514.6万トン、載貨重量トン数(DWT)2)は1億108.4万トンだった。総トン数ベースでみて20年前の2004年との比較では約4倍、4年前の2020年と比較しても約13%増加している。1隻当たりの船腹量は、経済性と最適化という観点からすれば、「大型化は限界の域に達している」との見方もあり、伸び悩んでいる状況が読み取れる(図表−2)。
船種別の保有隻数と愛媛の構成比
船種(船の種類)別の保有状況をみると、ばら積み船(バルクキャリア)が最も多く、734隻だった。次いでコンテナ船が225隻、ケミカルタンカー/プロダクトタンカーが127隻となった(図表−3)。2020年と比較して、自動車運搬船の隻数は変わらず、それ以外の全ての船種は増加していた。国内全体に占める愛媛の構成比をみると、冷凍船(48.4%)やコンテナ船(47.1%)、ばら積み船(43.9%)などで高いシェアを誇っている。
近年、資金力のある規模の大きな船主は、汎用的なばら積み船だけでなく、需要の高まっているLNG船やメガコンテナ船、環境負荷が小さいLNG燃料船などに積極的な投資を行っている。これらの船種は1隻あたり100億円以上の超高額になるが、船主間の競争が緩やかで長期傭船も獲得しやすい、まとまった償却資産になるなどのメリットがある。
3分の1の船主で8割の船を保有
船主を保有隻数で分類すると、10隻未満の中小船主が67業者(構成比66.3%)、10隻以上保有している中堅以上の船主が34業者(同33.7%)だった。100隻以上保有している大手船主も複数あった。また、中小船主の保有隻数は合計266隻(同19.2%)であるのに対して、中堅以上の船主の保有隻数は合計1,119隻(同80.8%)で、おおよそ3分の1の船主で8割の船を保有している(図表−4)。
単純平均した1船主当たりの保有隻数は2020年の14.4隻から2024年には13.7隻とやや減少した。
船籍国別の保有隻数
外航船は、登録税や固定資産税などの軽減、賃金の安い外国人船員を雇用して運航コストを下げるために、海外に船籍を置く「便宜置籍船」にするケースが多い。一方、国土交通省は、安全保障の観点や国際競争力強化を図るため、「トン数標準税制」3)を導入し、日本籍船の確保を図っている。近年は、大手海運会社をはじめ、専業船主の保有船でも外国籍から日本籍にシフトしたり、新造時より日本籍にしたりする動きがみられ、愛媛の船主の保有船でも2024年には29隻の日本籍船があって、4年前と比較して11隻増加していた(図表−5)。
そのほかの船籍国は、パナマが最多の834隻(構成比60.2%)で、リベリア(同14.6%)、マーシャル諸島(同11.9%)となった。リベリアやマーシャル諸島は、電子旗国証書の導入やオンライン申請の整備、環境負荷の小さい船の登録料割引などで船主の利便性を高めており、近年、隻数・シェアが大幅に伸びている。
保有船の建造国
愛媛の船主が保有する船舶の建造国を集計・分析したところ、愛媛の船主が保有する船の建造国は、国内建造が1,020隻(構成比73.6%)、海外建造は365隻(同26.4%)となった。建造地の県別構成比をみると、愛媛24.7%、広島11.1%、香川8.3%など、県内・近隣の瀬戸内圏域が約半数近くを占めた(図表−6)。
ただ、中国や韓国の勢力拡大により、愛媛の船主が保有する外航船は、海外で建造された船が増えつつある。かつて国内建造割合は9割近くを占めていたが、2017年の竣工船以降は低下傾向が続いている。2020年には70%を割り込み、その後回復したものの再び低下し、2024年竣工船の国内建造割合は68.2%となっている(図表−7)。
〈コラム〉LNG船と日本の海事産業
米国のトランプ大統領は、LNG輸出認可の審査を再開した。最大産出国の米国の輸出拡大で、2027年度には市場に出るLNGが2倍になる見通しで、LNG船の需要も増加が見込まれる。
島国の日本はLNGの輸送を船に頼ることから、海運大手3社は、80年代からLNG輸送を手がけ、足元ではLNG船の保有隻数で世界をリードしている(図表−8)。
一方、LNG船の建造を担うのは、韓国と中国の造船所が中心だ。特に、ロット受注に対応できる大規模設備を持ち、タンクや冷却設備などでも高い技術力を誇る韓国勢の受注が際立ち、日本の造船所は、ここ数年受注に至っていない(図表−9)。
おわりに
愛媛の外航船主は、長年の経験と慎重かつ的確な市況判断に基づき、保有隻数を拡充し続け、世界の海上物流に貢献してきた。今後も世界人口の増加・経済発展によって海上荷動き量は、拡大することが見込まれている。また、環境対応での新燃料船の需要も増していく。こうした中、「愛媛船主」は、これからも適正範囲内での保有船の隻数増やリプレイスを進めていくものと予想される。
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