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トランプ関税とその代償 (慶應義塾大学経済学部 教授 株式会社いよぎん地域経済研究センター 顧問 / 白塚 重典)

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トランプ関税とその代償
(慶應義塾大学経済学部 教授 株式会社いよぎん地域経済研究センター 顧問 / 白塚 重典)

公開日:2025.09.22

いよぎん地域経済研究センター

米国で第2次トランプ政権が発足してまもなく4ヵ月となる。この間、矢継ぎ早に打ち出された政策措置は世界経済に大きな影響を及ぼしている。特に通商政策は、関税措置の表明や先送り、撤回、発動と目まぐるしく変化し続けている。第1次政権では対中関税が中心だったが、第2次政権では、カナダ・メキシコの隣国を含むより広範な国・地域が対象となっている。4月2日に打ち出された相互関税は想像以上に大幅かつ包括的で、直後に株安、円高が進み、金融市場への影響は大きかった。世界経済の先行きは、不確実性を著しく高めている。


国際貿易理論の根幹をなす枠組みとして、比較優位という概念がある。お互いに相対的に得意な(生産性が高い)モノを生産し、それを交換することで、お互いに経済厚生(人々の満足度)を改善できる。生産性の水準が絶対的に高いかどうか(絶対優位)は問題にはならない。
この場合、経済にとって輸出はプラスで輸入はマイナスということにはならない。最終的に消費者が手にするのは、輸出品ではなく輸入品で、国際貿易は輸入する能力を獲得するためのものである。経済発展の源泉は、比較優位のモノを輸出し、劣位のモノを輸入することにある。
関税に代表される保護貿易的な政策は、比較優位に介入し、資源配分を歪め、経済厚生を低下させる可能性につながる。しかし、経済理論から支持されないとしても、途上国・新興市場国からの輸入により国内産業がダメージを受けるとして、グローバル化の流れに反対する議論は根強い。現実的な政策処方箋を考えていくうえで、国際貿易の基本的な理論モデルでは捨象されている要素が重要になることを示している。
最大のポイントは、労働者の企業間・地域間の移動が難しいことである。また、国際貿易は必ずしも最終財とは限らず、グローバルバリューチェーンという言葉に象徴されるように生産工程が複数国にまたがっている製品も多い。さらに、企業間の国内取引ネットワークを通じて、最終製品だけでなく、素原材料や中間財の貿易の影響は、直接貿易取引を行っていない企業にも波及していく。
こうした観点からは、国民のだれもが国際貿易から利益を得ることができる包摂的(inclusive)な国際貿易を目指していくことが期待される。国際貿易の影響は、労働者によって異なりうるし、失業や所得減少を被る可能性がある。この場合、職業訓練など離職者の就労支援により円滑・柔軟な労働移動を図ることが重要である。あわせて産業構造変化を促していくことが望ましい。関税や輸入制限あるいは影響を受ける企業・産業への補助金といった政策は決して望ましい選択肢ではない。


一つ一つの関税政策交渉の損得のみを単純に積み上げたのでは、マクロ的な影響を見誤る。グローバル経済全体として、短期的・個別的な視点ではなく、より長期的・包括的な視点からの政策対応が期待される。

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