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早めの対応で「負動産」にしない 〜愛媛の空き家の現状と利活用・除却の推進〜

調査レポート

早めの対応で「負動産」にしない
〜愛媛の空き家の現状と利活用・除却の推進〜

公開日:2025.09.22

新藤 博之

「負動産」という言葉を見聞きされたことはあるだろうか。資産価値が低く、売却が困難な不動産や、収益を生まない不動産のことを指し、代表例に「空き家」が挙げられる。適切に管理されていない空き家が問題になる中、移住促進や地域活性化の観点では、空き家に関する情報提供や利活用の取り組みが重要である。今回は、統計データをもとに、全国・愛媛の空き家の現状を取りまとめるとともに、法制度の現状や、県内の空き家対策について、利活用と除却(解体)の推進状況を紹介する。読者の中にも既に空き家問題に悩み、「何とか貸したい、売りたい」と心配されている方は多いと思う。空き家問題の現状を認識し、利活用に向けて何をすべきかを考える機会になれば幸いである。

空き家とは

空き家の定義

空き家は、辞書で「人が住んでいない、または使用していない家」と表現されているが、法律・制度などでは、さまざまな表現がなされている。
総務省行政評価局によると、「空家等」の定義として、「使用されていない(人の出入りのない)おおむねの期間」や「家屋の種類等」あるいは「家屋の状態」によって、その内容を整理している(図表−1)。
また、空き家の定義としてよく引用される「空家等対策の推進に関する特別措置法(=空家特措法、以下、空き家法)」の判断基準では、出入りの有無や電気、ガス、水道の使用状況ないしそれらが使用可能な状態にあるか、物件の登記記録や所有者の住民票の内容、物件が適切に管理されているか、所有者の利用実績などが示されている。
一方、5年ごとに総務省が実施する「住宅・土地統計調査」では、「居住世帯のない住宅」のなかで、「空き家」について、細かく分類・定義している(図表−2)。

4つのカテゴリーに分かれた「空き家」のうち、一般的な空き家のイメージ、「誰も住んでおらず、使われておらず、放置されている」ものは、「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」である※1)。これは、売りにも貸しにも出しておらず、定期的な利用がされていない状態で、管理する動機も弱いことから、特に問題視されることが多い。


※1)2018年調査までは、「その他の空き家」と分類された。

「空き家」の発生要因と弊害

適切に管理されていない空き家が大量に発生することにより、地域の景観や衛生環境、犯罪・火災発生のリスクなどの悪影響を及ぼす。空き家の発生要因と発生による弊害として、
①空き家発生の要因
・人口減少・高齢化
・新築志向
・所有者の相続問題 など
②空き家発生の弊害
・景観の悪化
・衛生環境の悪化
・倒壊、火災・犯罪リスクの増大
・管理・解体コストの増加 など
が挙げられる。

データでみる空き家の現状

全国の空き家数・空き家率の推移

先述したとおり、空き家数等を示す統計としては、総務省統計局による住宅・土地統計調査がある。2023年10月時点で全国の空き家の数は、900.2万戸にのぼり、前回調査の848.9万戸から51.3万戸増加した。総住宅数に占める空き家の割合(空き家率)は13.8%(前回調査から0.2ポイント上昇)で過去最高を更新した。賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率は5.9%(同0.3ポイント上昇)となった(図表−3)。

都道府県別の空き家率

①空き家率
空き家率を都道府県別にみると、最も高いのは徳島県(21.3%)で、以下、和歌山県(21.2%)、鹿児島県(20.5%)だった。また、山梨県(20.4%)、長野県(20.1%)のように別荘地で高いほか、四国は高知県(20.3%)、愛媛県(19.8%)、香川県(18.6%)と総じて高くなっている(図表−4)。
一方、空き家率が低いのは、人口が多い埼玉県(9.3%)、神奈川県(9.8%)、東京都(10.9%)や、人口が増加している沖縄県(9.4%)などである。

②賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率
同じく、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率を都道府県別にみると、鹿児島県が13.6%で最も高く、以下、高知県(12.9%)、徳島県および愛媛県(12.2%)、和歌山県(12.1%)など、西日本で高い傾向がみられる(図表−5)。
低いのは、東京都(2.6%)、神奈川県(3.2%)、埼玉県(3.8%)、沖縄県(4.0%)などとなっている。

愛媛の空き家数・空き家率の推移

愛媛の空き家の数は、2023年に145,600戸で、5年前と比べて15,800戸増加した。また、空き家率は19.8%(同1.6ポイント上昇)、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率は12.2%(同2.0ポイント上昇)で、いずれも過去最高となった。上昇率も全国を大きく上回っている(図表−6)。

愛媛の地域別・市町別の空き家率

愛媛県内の空き家の状況を地域別にみると、空き家率は、南予が24.4%で最も高く、東予は22.0%、中予は14.2%となっている。また、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率は、南予75.8%、東予64.0%、中予47.3%、賃貸・売却用の空き家率は中予50.0%、東予33.5%、南予22.2%だった(図表−7)。
また、市町別にみると、空き家率は、西予市が28.4%で最も高く、次いで宇和島市(27.3%)、今治市(25.7%)、八幡浜市(25.3%)、愛南町(24.6%)などとなっている。山間部が多く、人口減少の進んでいる南予の市町や、島しょ部のある今治市の空き家率が県全体よりも相対的に高くなっていることがわかる。一方、中予はすべての市町で県全体より空き家率が低いほか、内訳をみても、賃貸・売却用の空き家率と賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家率がほぼ同率となっている。
なお、前回2018年調査と比較すると、県都・松山市に隣接する松前町、南予の内子町、大洲市では空き家率が低下している。それ以外の市町では空き家率は上昇しており、特に新居浜市、西予市、宇和島市では5ポイント以上上昇している。

〈参考〉 15,000人未満の県内自治体の空き家の状況

住宅・土地統計調査は、空き家数等の概況を把握するうえでは有益であるものの、抽出調査のため、人口1万5,000人未満の自治体の結果は公表されていない。
一方、空き家法に基づき、市町村が空き家等対策の方針や取り組みを定めた「空家等対策計画」を策定するため、その基礎データとして、空き家数・空き家率を調査していることがある。
県内5町の状況をみると、空き家率は、1~2割程度でばらつきがみられ、住宅・土地統計調査による県全体・他市町との差が大きい町もある(図表−8)。その理由は、対象の建物や調査・判定方法などがそれぞれ異なっていることだが、いずれの町も人口減少は著しく、担当者からは「今後、空き家の数は、確実に増える」との声が聞かれた。

法律・制度による空き家対策~近年の主な動向~

空き家問題が深刻化する中、国や自治体は空き家の適切な管理や除却、また、空き家を増やさないためのさまざまな施策に取り組んでいる。ここでは、①相続登記の義務化、②空き家法の改正の2点に絞り、概要を紹介する。

相続登記の義務化

2024年4月1日以降に相続(分割協議)や遺贈によって不動産を取得した場合には、3年以内に相続登記を行う必要がある。空き家を相続した場合も適用される。
また、2024年4月1日以前に相続を受けた場合でも、2027年3月31日までに相続登記をしなければならず、所有権を曖昧なままにしておくことができなくなる。なお、登記を怠った場合は、10万円以下の過料が科せられる可能性がある。

空き家法の改正

2015年に施行された空き家法は、倒壊の危険のある「特定空家」の対策を進めることが主な目的だった。しかし、施行後も「特定空家」は増え続け、早急な対応が必要になったことから、2023年12月に改正・施行された。ポイントは主に3つある。
活用面では、「活用促進区域」が創設され、住宅に用途が限定されている区域の建物でも、市町村が指針を定めれば、店舗やカフェなどに転用できるようになった。
一方、優遇見直しや管理強化の面では、「管理不全空き家」の勧告を受けた住宅用地への固定資産税減額特例の解除や災害・緊急時などに自治体が手続きを簡略化して除却(解体)の緊急代執行ができるようになった(図表−9)。

危険な空き家を増やさないために ~利活用と除却の両面から~

愛媛の2023年の空き家率は全国7位で、人口や世帯数の減少により、空き家数の増加・空き家率の上昇が予想される。
空き家は放置期間が長くなればなるほど、老朽化や損傷が進み、賃貸・売却などが難しくなってしまう。今回の空き家法改正では、所有者の責務が強化され、いかなる対応を取ってもコストはかかる。早めに話し合ったり、相談したりして方針を決め、利活用・除却を進め、危険な空き家を増やさないための行動が求められる(図表−10)。

親が元気なうちに方針を決める

空き家の発生原因は、相続によるものが多い。家族が元気なうちによく話し合い、方針を決めておくことが重要である。親が住まなくなった後の家をどうしたいのか、考えや思いを伝えずに方針が決まらないまま、子どもが相続すると、放置されてしまうケースが多い。「愛着がある」「将来、誰かが使う」などとためらって、使用可能な建物が空き家になり、朽ち果ててしまうケースもある。相続後に「誰が住むのか」「売るのか貸すのか」「解体するのか」など、家族・関係者でよく話し合っておくことが重要である。

相談・支援サービスにコンタクト

既に空き家を所有している、あるいは空き家にしてしまった場合も、先送りや放置をせず、利活用を考えてほしい。「適切な管理方法がわからない」「登記・手続きなどの費用がかかる」などの悩みがあれば、まず、空き家のある自治体の窓口や不動産業者に相談すれば、利活用に関する情報提供、見回り・管理代行サービスなどの紹介が受けられる。
また、NPO法人「愛媛県不動産コンサルティング協会」は、愛媛県の協力を得た「空き家相談室」を運営している。不動産鑑定士や税理士などの専門家による相談や物件調査、問題点の把握などを経て、利活用につなげる事業や業者を紹介してもらえる。遠隔地にある物件でもオンラインで対応してもらえることも多いので、こうした相談・支援サービスを頼りに、早めの対応が求められる。

利活用の推進

空き家の利活用として「空き家バンク」が知られている。空き家バンクは、自治体が主体となって運営されており、所有者から登録を募り、利用希望者に売却や賃貸などの情報を無料で提供し、マッチングさせる仕組みである。
県内では松前町を除く19市町で空き家バンクが運営されており、ホームページ等に約800件の物件情報が掲載されている(2025年4月現在)。また、愛媛県の移住希望者向けポータルサイト「えひめ移住ネット」には約200件が掲載されている(同)。このほか、全国の自治体を横断して容易に検索できる「全国版空き家空き地バンク」でも、県と15市町の物件情報を閲覧できる(図表−11)。

空き家バンクの運営状況について市町の担当者にヒアリングしたところ、「空き家に住みたい人は一定層いる。安価な物件は成約につながりやすい」「不動産業者とも連携しながら、積極的に物件情報を登録している」などの意見があった。また、「空き家対策と移住・定住促進は、一緒に取り組んでマッチングを図るのが効果的」との声も聞かれた。成約率の高い自治体では、移住者・所有者ともに仲介手数料や改修費、引越費用、家財の処分費用などで手厚い補助制度を設けているケースが多い。
一方、「登録数が少なく、需要超過である」「所有者が県外にいて連絡が取りにくい」「他人に貸すことへの不安・抵抗がある」といった意見もある。ただ、移住推進において住まいの確保は大きな課題で、所有者に対して丁寧かつ継続的なアプローチ、利活用によるメリットを紹介するなどして、空き家バンクの活性化、空き家の価値を維持・向上させる取り組みが求められる。

空き家バンクを運営する自治体担当者の声

〇  状態のよい空き家は、買い手や借り手が見つかりやすい。所有者へ直接連絡したり、パンフレットを送付したりして、空き家バンクへの登録をうながしている。
〇  空き家バンクに登録した物件が移住希望者の目に留まり、貸借・移住につながった。その後、「所有者が家賃収入を得ている」との情報が口コミで広がり、近隣の物件も空き家バンクに登録された。
▲  所有者の物件(実家等)に対する思い入れが強い。引き合いがあっても「正直、他人には住んでもらいたくない」と空き家バンクの登録を解除するケースがある。

デジタル先進地の「空き家バンク」~徳島県那賀町の取り組み~

「日本一ドローンが飛ぶ町」を目指し、移住希望者も多い徳島県那賀町。2015年に徳島版ドローン特区(地方創生特区)に選ばれたことを活かし、空き家バンク登録物件の空撮写真や、360度カメラによる家屋内写真などをホームページやYouTubeで公開するなど、オンラインコンテンツの充実を図っている。
24年度には、空き家バンクが掲載されている移住定住サイトを含む町公式ホームページ、行政サイト、子育てサイトの4つの公式サイトを、より見やすく、わかりやすくリニューアルし、空き家バンクの登録件数の増加、利活用の促進を目指している。空き家率が全国で最も高い徳島県における取り組みの今後が注目される。

除却・取り壊しの推進

状態の悪い空き家は早期に除却する必要があるが、空き家の解体費用は、数十万円から数百万円以上かかるといわれている(建物の構造や規模、立地などによって異なる)。そこで、各市町は老朽・危険な空き家の解体・撤去に対する補助金を出しており、例えば、松山市の老朽危険空家除却事業(24年度)では、要件を満たす住宅の解体工事経費の5分の4(上限80万円、島しょ部は上限120万円)が補助される※2)。制度の詳細は、各市町によって異なるので、ホームページや広報紙などで確認いただきたい。ただ、「個人の資産(建物)の解体に税金を使うのは、不公平感がある。まずは、利活用を考えてほしい」という意見も聞かれた。
一方、改正された空き家法にもとづき、自治体は緊急代執行の措置を取り始めている。国土交通省によると、昨年12月1日時点で特定空家等に対する緊急代執行は全国で7件の実績がみられ、その後、県内の自治体で緊急代執行が行われた事例もある。また、固定資産税の軽減措置を解除する動きもみられる。ある市の担当者は、「個人の資産とはいえ、法制度による踏み込んだ対応を取らなければ、危険な空き家はなくならない」と話す。


※2) 令和6年度老朽危険空家除却事業
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/bosyu/akiyajokyaku.html

「特定空家」や空き家の除却に対する自治体担当者・相談担当者の声

▲  除却補助の申請が多く、予算や実地審査が追い付かない。順番待ちの状況が続いており、危険度の低い建物は、翌年度以降に再申請してもらっている。
▲  法改正で、行政は踏み込んだ対応ができるようになった。固定資産税の特例解除や行政代執行費用の請求など、所有者の負担は増す。「放置しておけば行政が何とかしてくれる」という考えは、なくしてもらいたい。
▲  山間部や島しょ部で、近隣に迷惑をかけていない、道路に面していない、補助を受けても解体・処分費が高い空き家は、そのまま放置されるケースが少なくない。

「空き家問題体験すごろく」~四国中央市の取り組み~

四国中央市は、積極的な空き家対策の取り組みの結果、18~23年の5年間で空き家率は上昇したものの、使用目的のない「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」が210戸減少し、全国的にも注目されている。
例えば、官民連携による「四国中央市空き家・空き地対策連携推進会議」を立ち上げ、空き家・空き地問題の無料相談会を実施するほか、啓発冊子の制作、「空家等対策協力事業者名簿」の公開などに取り組んでいる。
また、空き家の管理に関する出来事を示し、空き家問題に対する関心と知識を高めて、早めに対処することの大切さを気付かせるために、「空き家問題体験すごろく」が作成された。遊び方は、サイコロをふってコマを進めると、空き家の活用や処分にかかる費用が表示され、損得計算を競い合うものだ。さまざまなストーリーのゴールが設定され、楽しみながら空き家問題を体験できる。このすごろくは、四国中央市のホームページからダウンロードできる。

資料:四国中央市ホームページ
https://www.city.shikokuchuo.ehime.jp/site/akiyataisaku-matome/1597.html

おわりに

先祖・親から引き継いだ大切な家。活かすためのキーワードは、「早め」である。本レポートがきっかけとなり、利活用の促進と危険な空き家(負動産)の減少につながることを願う。

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