相互関税による影響「まだわからない」が半数弱現地情報の収集が課題
~「トランプ関税」が県内輸出企業に与える影響~
公開日:2025.09.22
4月2日、トランプ米国大統領による広範な相互関税の発表は、世界経済と金融市場に大きなインパクトをもたらした。相互関税は2層構造になっており、基礎部分の10%は4月5日にほぼすべての貿易相手国・地域を対象に発動された。上乗せ部分は9日に発動されたものの、トランプ大統領は翌10日に上乗せ部分の90日間停止を発表した。2日の発表直後から株式・為替市場が乱高下し、混乱の渦中にある(図表-1)。
INDEX
日本は対米輸出依存度が高く、とくに自動車産業に与える影響が大きい。愛媛は全国ほど対米輸出の依存度は高くないものの、地場の主力産業における影響は少なからずあると思われる。このような状況を踏まえ、日本貿易振興機構愛媛貿易情報センター(以下、ジェトロ愛媛という)、および愛媛県産業貿易振興協会(同、産貿協)の協力を得て、県内輸出企業における「トランプ関税」の影響と対応状況を調査した。
足元(4月18日時点)での影響
輸出企業の5割が対米輸出あり
アンケート回答先の輸出取引の形態は、「自社で直接輸出」する企業が34.5%、「商社経由等の間接輸出」も同じく34.5%、「直接・間接の両方」を行っている企業は31.1%だった(図表-2)。また、直接輸出か間接輸出かを問わず、米国向けの輸出がある企業は51.3%だった(図表-3)。
関税の影響「まだわからない」が約半数
品目別や相互関税の基礎部分10%、中国などへの報復関税が発動されている足元(4月18日時点)での影響を直接輸出・間接輸出別に尋ねた(図表-4)。
直接輸出では、「マイナスの影響がある」とする企業が20.5%で、「ほぼ影響はない」は30.1%、「まだわからない」が48.2%、「プラスの影響がある」とする回答は1.2%だった。対米輸出がある企業の31.4%は、少しずつマイナスの影響が表れ始めているようだ。対米輸出がない企業は、「ほぼ影響はない」とする企業が半数を超え(53.1%)、「まだわからない」が43.8%となっている。
間接輸出では、「マイナスの影響がある」と回答した割合は20.4%だった。「ほぼ影響はない」が28.0%、「まだわからない」が51.6%となった。
全体的に、「まだわからない」と回答する企業が半数近くにのぼり、現段階では情報収集、様子見の状況にあるようだ。直接・間接を問わず、対米輸出がある企業の方がマイナスの影響が大きいことがうかがえる。
具体的なマイナスの影響
足元(4月18日時点)でマイナスの影響が生じている先に、具体的なマイナスの影響を尋ねた。サンプルが限られているが、「対米輸出売上減少」(56.0%)と回答する割合が最も高かった(図表-5)。そのほかでは、「円高デメリット発生」(20.0%)や「対中輸出売上減少」(20.0%)など、売上に直結する項目への影響が見られる。
県内輸出企業の声〜足元の影響〜
▶大手メーカーの新規開発プロジェクトの日程が延期された(金型製造)
▶米国向けの受注は少ないが、案件があれば継続する。受注金額が低下するようであれば発注元と打ち合わせ方針を決定する(工作機械製造)
▶今の段階では何もわからない(飲食料品卸売)
▶関税の影響も心配だが、原料のコメ(国産米)が価格高騰で手に入りにくい状況も懸念材料(酒類製造)
自社業績への影響度
では、マイナスの影響があるとした企業は、売上や利益がどの程度目減りすると見通しているのだろうか。
売上は「10%未満」の減少と回答した企業が56.0%と最も多い(図表-6)。「10~30%未満」は20.0%、「わからない」は24.0%だった。
利益も、「10%未満」の減少を見込む割合が52.0%と最も高い。「わからない」が36.0%で続き、「10~30%未満」は12.0%だった。
売上、利益ともにマイナス幅が大きい企業は、対米輸出がある先が多い傾向だった。
追加関税停止期間(90日)終了後の影響見通し
足元と比べ「マイナスの影響がある」が増加
90日間の追加関税停止期間終了後、当初の予定通りに相互関税が計24%となった場合の影響を直接輸出・間接輸出別に尋ねた(図表-7)。
直接輸出では、「マイナスの影響がある」とする企業が25.6%で、「ほぼ影響はない」が30.5%、「まだわからない」は43.9%だった。
間接輸出でも、「まだわからない」(45.7%)とする企業が多く、「マイナスの影響がある」が29.8%、「ほぼ影響はない」は24.5%だった。
「マイナスの影響がある」と回答した割合を足元(4月時点)と比べると、直接輸出は5.1ポイント、間接輸出で9.4ポイント増加しており、関税引き上げが実施されると今後さらにマイナスの影響が広がるとみる企業が多いようだ。なお、「プラスの影響がある」と回答した企業は、直接輸出・間接輸出ともにゼロだった。
具体的なマイナスの影響
90日後の相互関税発動にともなってマイナスの影響が生じると見込んでいる先に、想定される具体的なマイナスの影響を尋ねたところ、「対米輸出売上減少」(82.4%)と回答する割合が圧倒的に高くなった(図表-8)。足元と比べると「対米輸出売上減少」の割合が26.4ポイント、「対米中以外の輸出売上減少」が3.8ポイント、「資金繰り悪化」が1.9ポイント、「調達コスト増加」が1.6ポイント増加している。相手国に関わらず輸出減少を懸念する企業が多いことがわかる。
マイナス幅は足元よりも拡大の見通し
追加相互関税発動によって、売上・利益にどの程度マイナスが予想されるか尋ねたところ、売上は「10%未満」の減少と回答した企業が47.1%と最も多い(図表-9)。「10~30%未満」とした企業は20.6%だが、「足元は数%程度の減収・減益が想定されるが、追加関税が発動されればマイナス幅は大きくなるだろう」という声が複数から聞かれた。
利益も、「10%未満」の減少を見込む割合が47.1%で最も高く、「わからない」が35.3%で続く。「10~30%未満」は14.7%、「30~50%未満」は2.9%だった。
県内輸出企業の声〜中長期的な影響〜
▶相互関税導入を見越し、一部前倒しで輸出していたため現在のところ大きな影響はないが、関税で世界全体の景気が減速しないか心配(水産加工品製造)
▶輸出は少額のため影響は少ないが、円高が進みインバウンドが減少すると国内販売が減少する(繊維製品製造)
▶中国の現地法人を経由し、製品の多くが米国に輸出されている。関税の低い代替国での生産に切り替えるにも時間、費用がかかる(化学製品製造)
▶中国の水産物輸入が再開されれば、米国向けの減少を中国向けに振り向ける(水産加工品製造)
今後の対応策
マイナス影響の回避・軽減策は販路開拓が最多
90日後の相互関税発動にともなってマイナスの影響が生じると見込んでいる先に、その影響を回避または軽減するための対策を尋ねた。
「新たな輸出先への転換・開拓」が41.2%で最多、「米国取引先への価格・条件等の再交渉」の38.2%が続く(図表-10)。取材のなかで「数%程度の値下げは許容できるが、自社製品の付加価値をアピールして極力値下げしないようにする」といった声も聞かれた。
対米取引の方針は「未定」が最多
現時点における今後の対米貿易取引の方針については、「未定」(38.7%)とする企業が最も多く、「もともと取引はなく、今後も予定はない」(37.0%)が続く(図表-11)。「拡大方針」は12.6%で「縮小方針」、「次期米政権まで様子見」とする回答はなかった。少なくとも、トランプ関税によって大きな方針転換を検討する企業は現段階ではなさそうだ。
関税強化による中国景気の悪化を懸念
「トランプ関税」からの波及が予想される経済環境の変化のうち、自社の事業にとって影響が大きいものを尋ねた。「世界的な物流の停滞」(37.0%)、「米国国内景気の悪化」(36.1%)がほぼ同数で並び、「為替相場の過度な円高進行」(33.6%)、「中国国内景気の悪化」(32.8%)が続く(図表-12)。これらの状況がさらに顕在化すると、より多くの企業でマイナスの影響が生じてくるだろう。
とくに中国は県内輸出企業の主要相手国であり(P.15「データよもやま話」参照)、中国経済の動向に左右される企業が多い。追加関税の90日間停止を発表した後も、米国と中国はお互いに追加関税を課すなど報復合戦が続いている。景気の見通しが不透明な状況にあり、引き続き、米中間の成り行きによって世界情勢がどのように変化するのか注視する必要があろう。
現地情報の収集が課題
今回のような貿易環境の急激な変化に対応するうえでの問題点や、取引金融機関や支援機関に期待する支援策を尋ねた。問題点で最も回答が多かったのは「現地情報が不十分」で50.4%(図表-13)。それに呼応するように、期待する支援策も「現地情報の提供」が48.7%を占める(図表-14)。報道等でマクロ的な状況はつかめるものの、ミクロの情報が得られない状況に気をもむ企業が多いことがうかがえる。
問題点で「現地情報が不十分」に次いで多かったのは「対応するノウハウの不足」で35.3%だった。「専門人材の不足」(24.4%)や「専門部署がない」(21.8%)を含め、自社ですべてを対応するには限界がある。ジェトロ愛媛では、『米国関税措置等に伴う日本企業相談窓口』を、愛媛県でも『金融特別相談窓口』を設置するなどしている。各種支援機関を積極的に活用することを勧める。
県内輸出企業の声〜販路開拓と現地情報収集〜
▶愛媛県は引き続きベトナム、台湾などアジア諸国を中心とした販路開拓の連携をお願いしたい(酒類製造)
▶アメリカ向けの売上が減少することに伴う新規取引先の開拓および詳しい情報収集の確保が急務。金融機関には売上減に伴う資金繰りへの支援を迅速に行って欲しい(その他サービス)
▶現地での安全や人員確保など安定生産に向けてのどのような取り組みが必要かについ ての情報が不足している(紙製品製造)
▶タイムリーな情報収集が課題であり、大きな変化があった際には情報提供や今回のようなアンケートで他社動向がわかると助かる(紙製品製造)
各種相談窓口
▶日本貿易振興機構(ジェトロ)愛媛貿易情報センター(米国関税措置等に伴う日本企業相談窓口)
電話:(089)952‒0015
E‒mail:EHI@jetro.go.jp
▶愛媛県産業貿易振興協会
電話:(089)953‒3313
▶伊予銀行( 米国政府の追加関税措置等に関する相談窓口)
設置店舗:国内全営業店
※一部、事業資金を取り扱っていない店舗がございます。※該当店舗への事業資金に関するご相談については、取扱店舗へ取次ぎさせていただきます。
まとめ
今回の調査時点では、対米輸出を行う企業を中心にトランプ関税によるマイナスの影響がみられたが、直接的な影響は限定的といえる。しかし、追加関税停止期間後、さらに関税率が引き上げられればマイナスの影響は広がっていくだろう。5月2日までに日米間で2度にわたって関税交渉が行われたが、合意には至っていない。3日には自動車部品を対象にした25%の追加関税が発動された。今後も、米国は日本側の提案を見極めながらどの交渉カードを切っていくのかを判断していくものとみられる。日本は、6月15日から始まるG7までの大枠合意を目指しているが、今後の交渉は楽観視できるものではなさそうだ。引き続き、関税交渉の行方を注視する必要があろう。
※本稿は、4月24日に発表したニュースリリースを一部加筆しています。
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