房総をつなぐ、
「房総横断鉄道 たすきプロジェクト」
公開日:2025.09.22
全国の地方銀行9行による「地域再生・活性化ネットワーク」の共同企画として、各地の地域活性化に向けた取り組みをご紹介するコーナー。今回は、千葉県の代表的なローカル鉄道と千葉銀行グループがタッグを組んで行った地域おこしの取り組み「房総横断鉄道 たすきプロジェクト」を紹介します。
INDEX
人口減少、高齢化が進む小湊鐵道・いすみ鉄道沿線地域
千葉県の代表的なローカル鉄道である小湊鐵道といすみ鉄道。小湊鐡道は、市原市の五井駅を始点に大多喜町の上総中野駅まで39.1㎞、いすみ鉄道はいすみ市の大原駅から上総中野駅まで26.8㎞と、両鉄道の線路は上総中野駅を結節点として、ちょうど房総半島の中央部あたりを横断するように敷かれている。トロッコ列車などの観光列車も走り、車窓からは牧歌的な雰囲気がただよう里山の風景を眺めることができる。春先には、沿線に咲く菜の花も美しい。
その沿線地域(市原市、いすみ市、勝浦市、大多喜町、御宿町)では、人口の減少が進んでいる。沿線地域の人口をみると、2005年:371,557人→2025年:323,727人と20年前と比較して12.9%(47,830人)減少した。同期間の千葉県(同2.6%増)や全国(同2.2%減)に比べると、落ち込みは大きくなっている。また、将来の人口に目を向けても、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2045年(20年後)の沿線地域の人口は、260,314人と25年比19.6%減となっており、千葉県(同7.1%減)や全国(同8.6%減)と比べると減少幅が大きい。
沿線地域では人口減と共に、高齢化の進行も進む。沿線地域(2005年:19.8%→2025年:33.6%→2045年:41.1%)は、千葉県(2005年:16.7%→2025年:27.6%→2045年:34.8%)や全国(2005年:20.1%→2025年:29.6%→2045年:36.3%)と比べると高齢化の進みが早くなっている。
地域を盛り上げる「房総横断鉄道 たすきプロジェクト」
そんな沿線地域を盛り上げようと、両鉄道と千葉銀行グループがタッグを組んで、新たな地域おこしの取り組み「房総横断鉄道 たすきプロジェクト(以下たすきプロジェクト)」が始まった。両鉄道の沿線地域の事業者が、ちばぎん商店㈱の運営する購入型クラウドファンディング「C‒VALUE」を通じて新たな商品やサービスを提供し、地域の新しい魅力創出を図る。“たすき”には、前述の両鉄道の線路をつなぎ合わせると、房総半島をたすき掛けにしているように見えることに加え、新たな商品や事業の創出によって地域活性化に貢献する未来への“たすき”、参加企業同士のマッチングなど人と人との“たすき”といった意味が込められている。
2024年12月に開始したたすきプロジェクト第1弾企画では、小湊鐵道沿線の移住者を巡るツアーやいすみ鉄道沿線の宿泊施設による地元食材を使用した限定ディナーコース、竹林整備とメンマづくり体験など個性豊かなプランが揃い、合計400万円以上の支援を集めた。いずれも沿線に足を運んでもらうきっかけづくりを主眼に置く。
1,000人を超える来場者を集めた たすきプロジェクト第2弾「結び目マチルシェ」
今年4月26日にはたすきプロジェクト第2弾として、小湊鐡道といすみ鉄道の結節点となる上総中野駅にて、両鉄道の沿線グルメなどを楽しめるイベント「結び目マチルシェ」が開催された。当日は、地元のグループによる和太鼓の演舞やダンス、ハンドベル演奏などが披露され会場を盛り上げたほか、地元のクラフトビールやジェラート、ジビエ料理など沿線のグルメが約30店舗出店。人口8,000人の大多喜町に1,000人を超える来場者が訪れ、大変な賑わいを見せた。来場者からは、こうした大規模なイベントは地域では少なく、地域で交流するきっかけとなっているとの声も聞かれた。
あわせて同イベントでは、C‒VALUE上で新たに公開する11の新企画を沿線事業者自らがプレゼンテーションを行い、直接来場者に支援を訴えた。千葉銀行からは、スマートフォンアプリで閲覧・コレクションができる両鉄道公認の車両型「房総横断鉄道 たすきNFT※(期間4/26~6/26)」を配布したほか、沿線地域への誘客・回遊を目的にスタンプラリーイベント(4/26~7/26)などを発表した。スタンプラリーは、沿線地域の駅やグルメ、観光名所など50か所にスポットを設置し、3か所集めると特別乗車券、25か所集めると沿線旅館の宿泊クーポン券が当たるイベントで、沿線地域での回遊性を高め、新たな魅力を発見してもらいたい考えだ。
沿線地域の活性化が必要
沿線地域の人口減少と高齢化を背景として、小湊鐡道・いすみ鉄道の利用客も減少している。こうした負のスパイラルが続けば、人々のコミュニティ活動や、経済活動を支えてきた地域鉄道の縮小、廃線につながりかねない。こうした事態を回避するためには、地域の新たな資源・ニーズの発掘と成長への継続的な支援・投資に地域の関係者が連携して取り組むことが不可欠だ。その意味で、地域の事業者が連携し、地域へ投資を促す「たすきプロジェクト」は大きな意味を持っている。地域の魅力的かつ新たな資源を見出し、そこに投資を集める。本プロジェクトがきっかけとなり、地域の活性化や関係人口の増加、移住定住につながるなど地域全体の盛り上がりにつながっていくことを期待したい。
※ 「Non‒Fungible Token」の略。ブロックチェーン技術を用いて、デジタルデータに唯一の性質を付与して真贋性を担保する機能や、取引履歴を追跡できる機能を持たせたもの。
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