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各種調査レポート

【紀行】 シアトル・サンフランシスコを訪ねて IRCニュー・リーダー・セミナー(34期生)海外研修旅行

紀行

【紀行】
シアトル・サンフランシスコを訪ねて
IRCニュー・リーダー・セミナー(34期生)海外研修旅行

公開日:2025.09.22

岡本 竜太郎

はじめに

次代を担う若手経営者の学びの場として、1989年より開催しているIRCニュー・リーダー・セミナーにおいて、「海外研修旅行」は1年間のカリキュラムの目玉の一つだ。これまで訪問先はアジアが中心であったが、今回の訪問先は2018年以来2度目となるアメリカ合衆国である。

訪問地はスターバックスやアマゾン、ボーイングといった世界的企業が集まるシアトルと、巨大なIT企業が集中し、世界中から多くの資金と人材が流入しているサンフランシスコ・シリコンバレーだ。ニュー・リーダー・セミナー34期生(22名)とともに同地を訪問して、アメリカ経済を垣間見つつ、現地で活躍している日本のビジネスパーソンの話を直接聞くなど、貴重な経験をした。

訪問地の基本情報

シアトル・サンフランシスコ

今回訪れたシアトルとサンフランシスコの統計データをアメリカセンサス局のウェブサイトなどから情報収集した。シアトルの人口は6割が白人系でアジア系が2割弱となっている。一方で、サンフランシスコは6割がアジア系を含めた非白人系で、より多くの人種に出会える。アメリカでの在留邦人数は、ロサンゼルス、ニューヨークに次いで、サンフランシスコは3番目に多い。シアトルは5番目に位置しており、両都市とも多くの在留邦人がいる。世帯収入(中央値)はともに12万ドルを超えており、全米平均の7.7万ドルを大きく上回る。25歳以上人口の6~7割が大学卒以上と、教育水準も全米平均よりはるかに高く、比較的恵まれた都市といえる。

参加者レポートより

有限会社道下建設 道下 大輝シアトルは豊かな自然と都市機能が見事に融合しており、ダウンタウンのすぐそばに美しい湖や森林が広がっていることに感銘を受けた。

佐川印刷株式会社 佐川 央晃

 サンフランシスコの街中では英語以外の言語(スペイン語や中国語など)が飛び交う場面も多く、日本に比べて文化の多様性が際立っていた。

株式会社大和商會 川崎 紗恵子

サンフランシスコではホームレスが異様に多く薬物中毒状態の人もいて、怖さも感じた。衛生面と全てにおけるきめの細やかさは、やはり日本が優れていると実感した。

株式会社ユアーズネクスト 有光 駿汰郎

アメリカ人は仕事を生活の一部として捉えていて、スーパーでは歌っている店員もいて、皆がすごく楽しそうに仕事をしていた。



シアトル訪問

Boeing Everett Factory Tour

世界最大の航空宇宙企業であるボーイングは、民間航空機や軍用機、宇宙船、人工衛星などを開発・製造し、150か国以上に提供している。
1916年に木材王ウィリアム・E・ボーイングが、シアトルのドゥワミッシュ川沿いの造船所跡で航空機開発を始めたのが興りである。現在、本社はバージニア州に移転したものの、シアトル北部に世界最大の容積を持つ工場があり、民間航空機部門の拠点となっている。
今回の工場見学では、ボーイング777の製造ラインを視察し、開発中の新型機も見ることができた。「生産性を高めるために日本のアイデアが導入されている」と案内ガイドから聞き、日本の製造現場の改善能力は世界で通用していると実感した。

参加者レポートより

浅川造船株式会社 浅海 真

文化の違いかもしれないが、従業員のほとんどがヘルメットを被っておらず、安全面で問題がないのか疑問に思った。

SANYOホールディングス株式会社 武内 和治

非常に大規模な製造工場で、細部までは見られなかったが、米国のものづくりの現場を体感でき、貴重な機会となった。

宇和島屋(UWAJIMAYA)

次に訪問したのは「UWAJIMAYA」だ。これは「宇和島屋」のローマ字表記で、創業者は愛媛からシアトルに移り住んだ森口富士松氏(八幡浜市出身)である。森口氏が宇和島で修業していたことが社名の由来となっている。創業は1928年で、100年近く事業を続けている。始まりは家族経営の小さな店だったが、いまやシアトルやその周辺で知らない人はいない有名スーパーになっている。

当日は、現CEOであるデニス・モリグチ氏が笑顔で迎えてくれた。デニス氏は、シアトル生まれで、マサチューセッツ工科大学でMBAを取得した日系3世の女性経営者である。多忙ななか、私たちのために時間をとっていただいた。創業者の出身地である愛媛には愛着があるのだろう。愛媛フェアをたびたび企画するなど、愛媛との縁を大切にされている。
創業時はシアトルに住む日本人を相手にビジネスを展開していたが、現在では日本やアジアの食文化に関心がある層にターゲットが広がっている。アメリカでは、健康的で味も良い日本食への人気が高く、高品質のイメージも浸透している。販売価格も維持しやすく、他のアジア系スーパーに比べると経営には有利に働いているそうだ。
 「今後も日本のメーカーや地方自治体などとタイアップすることで、競合スーパーとの差別化を図っていきたい」と話してくれた。

デニス・モリグチ氏の講話で、特に印象に残った内容は、「企業の基本原則として従業員とお客さまを家族のように扱う」ことだ。利益志向が強いと思っていたアメリカの企業から、家族や従業員、そして地域を大切にするメッセージを聞いて驚くとともに感銘を受けた。
講話後は限られた時間であったが、デニス氏への質問や名刺交換の機会をいただけた。トランプ関税の影響や、ファミリービジネスのあり方、店舗に来てくれたお客さまの体験を大切にしていることなど、数多くの質問に対して気持ちよく答えてくれた。セミナー生にとって、アメリカの地で愛媛をルーツとした経営者から勇気をもらえる時間であった。

参加者レポートより

三原産業株式会社 三原 大誠

日系人が減りつつあるシアトルで「他の移民を理解し、新しいターゲット層を見つける」という着眼点で事業展開されている。発想の転換や探求し続ける努力が必要だと学んだ。

株式会社Saku Saku 田村 由美

「自社の商品も、海外の日系スーパーに並べてもらえるレベルを目指していきたい」そんな想いが強く芽生えた。日本の水産加工品の魅力をもっと多くの人に届けられるよう努力したい。

合同会社発達の木 今岡 健一

「地域に必要とされ、愛され続ける場とは」を問い直す機会となり、構想中の計画に対する示唆を得た。

有限会社ボイス 佐伯 祐輔

自社の業界は縮小しているが、固定観念に囚われずに、今まで以上に柔軟な思考を養わなければならないと感じた。

フジリネンサプライ株式会社 小川 靖人

親族経営を続けていく上で大切なことは、会社と社員・家族の意見交換をより多く行うこと、役員には親族以外にも入ってもらい、今後の運営について議論ができることだと学んだ。

The Museum of Flight

航空博物館(The Museum of Flight)は、1965年に設立された民間航空宇宙博物館で、150機以上の航空機のほか、航空関連の書籍、航空機マニュアル、写真などのアーカイブ資料が大量に収蔵されている。また、ボーイングの創業当時の社屋が移築・復元された「レッド・バーン」の内部では航空機とボーイングの歴史を学ぶことができる。
展示されている航空機すべてを見て回ることは不可能だったが、航空機の進歩を見ていくと、先人達の挑戦により、どのように実用化まで至ったのかを知ることができた。いつも何気なく利用している飛行機が技術革新の集積であることを改めて知る機会であった。

参加者レポートより

みすまる産業株式会社 森實 優雄

インターネットやGPSと同様に航空機は軍事利用のために発展した技術である。技術には表と裏の面があるが、人を幸せにしたいと思う心が経営者として大事だと思った。

Amazon Go

Amazonが運営する未来型コンビニエンスストア「Amazon Go」を体験した。同店舗のアプリを事前に登録し、店舗入口のゲートに二次元コードをかざして入店。欲しい商品を手に取り、そのまま店舗を出ればアプリで自動的に決済される仕組みだ。レジに並ぶことも、財布からお金やカードを出すことも必要ない。日本でも増えつつある無人コンビニとの大きな違いは、この「決済プロセスが不要」な点である。

店内には複数台のカメラが設置され、誰が何を買ったかを動画で認識していたようだ。ただ、一度に大人数で入店したためか、数名に対して誤請求が発生した。100%完全なシステムでなくても、とりあえず始めてみるというアメリカらしさを感じた。話題になっていた未来の店舗を体験でき、セミナー生は満足した様子だった。


参加者レポートより

税理士法人クエスト 河内 宏規

料金精算までの自動化は初めての経験だった。先端システムに期待したが、一部のメンバーが誤請求という事故に見舞われ、負のインパクトが勝ってしまった。

サンフランシスコ訪問

シアトルでの視察終了後、昼から飛行機に乗り、2時間かけてサンフランシスコへと向かった。到着後、すぐにバスに乗り込み、ゴールデンゲートブリッジを見学した。涼しかったシアトルとは違い、サンフランシスコでは暑さを感じた。同じ国でも違う場所に来たことを実感した。

Firework 瀧澤優作氏

瀧澤氏は大学在学中にシリコンバレーに留学し、創業メンバーとしてベンチャービジネスに参画した。動画マーケティングプラットフォームであるFireworkの日本事業の立ち上げを指揮し、ソフトバンクのファンドから約220億円を調達した話などを聞かせてくれた。

瀧澤氏の講話のなかで特に印象に残ったのは、意思決定の速さだ。シリコンバレーでは意思決定のスピードを非常に重視しており、文化として「Fail Fast(早く失敗しろ)」とよく言われているそうだ。とにかくやってみて、1兆円のビジネスにならないと思ったらすぐに方向転換するという。
「新規事業に対して、どのくらいの確度でGOを出すのか?」と問われると、現在のビジネスモデルに辿り着くまでに8回も方向転換したそうだ。
「最初にプロダクトを設計する時はとにかくお客さまの声を聞きに行くことを必須としているが、その話を鵜吞みにせず、『WHY』を5回続けることで、プロダクトの本質的な課題を発見している」「すばらしいサービスを世に生み出すのが、トップの役割であり、社員にはその責任はない。アメリカ(特にシリコンバレー)では基本的に会社への忠誠心はないので、強いリーダーシップを持って、素晴らしいプロダクトを創出できる経営者が必要である」といった力強い話に感銘を受けた。

参加者レポートより

泉製紙株式会社 宇髙 剛政

 Fireworkは単なるショート動画配信ではなくECに繫がるシステムとして構築されており、自社でのEC展開のツールになり得る。

有限会社垂水味好堂 垂水 伸仁

EC事業の移り変わりの速さとスピード感(決断の速さ)を実感した。シリコンバレーで働く人も一匹オオカミではなく、横のつながりや情報交換を大切にしていることに驚いた。

株式会社ユイ・システム工房 稲葉 皓大

プロトタイプ開発からフィードバックの回数を増やし、本当に必要とされる製品開発を行っている。ビジネスを回している人と話をすることは面白い。

株式会社伊予銀行 上田 崇喜

リスクを恐れずに新しいアイデアを試すことを重視しており、これは日本においてはまだ十分に根付いていない。また、スタートアップ企業が平然と「1兆円規模のビジネス」を目指しているスケール感にも衝撃を受けた。

始動 World Innovation Lab 小松原威氏

小松原氏は大学卒業後、日立製作所を経てSAPジャパンに入社。2015年よりシリコンバレーにあるSAP Labsに赴任。その後、独立系VCのWiLにパートナーとして参画している。小松原氏からは独立系VCとして約20億ドル(3,000億円)を超える資金を運用していることやシリコンバレーの強み、最近のAIの動向などについてお話しいただいた。

小松原氏から「アメリカでのスタートアップ投資のうち、約半分がAI関連事業に向けた投資である」と聞き、「AI」という特定の領域に大量の資金が集中していることに驚いた。また、数多くのAIが開発されているため、シリコンバレーでも「どのAIに課金しているのか?」がホットワードになっているそうだ。
「日本では優秀な人材は大企業に入社するが、アメリカでは優秀な人材はスタートアップに参画するか起業する。また、人材だけではなく、資金もスタートアップに流れている」「シリコンバレーでは失敗を恐れないマインドセット、優秀な人材、資金スポンサーがそろっているから、これからもシリコンバレーで新しいサービスが提供され、世界を牽引していくだろう」など、日本ではなかなか聞けない話にセミナー生は関心を持っていた。

参加者レポートより

株式会社サンヨーアメニティ 白石 雄一

幅広い仕事がAIで対応できるため、「社員のキャリア形成を今後どのようにすれば、AIに取って代わられないか」を考えた。

株式会社アテックス 村田 博昭

今後AIの普及により人が考えなくても良い時代が来る。ただ人の考え方や発想・表現はAIではマネできないため、AIを利用しつつ最終判断は自分の意志で進めていくことが大事である。

株式会社コスモ 瀬川 玄夢

先進的なビジネス文化・働き方に触れ、自身の仕事の進め方に対する考え方が大きく変わった。特に、「変化を恐れずに行動すること」「顧客視点を忘れないこと」などの重要性を実感した。

Waymo乗車体験

サンフランシスコ滞在中にWaymoを体験したので、あわせてレポートする。Waymoは世界初の無人運転による配車サービスである。2018年に始まったサービスは現在、米国内5エリアに広がり、今後も拡大が予定されている。
サンフランシスコでは、約200台が24時間365日運行しており、Waymo Oneアプリをダウンロードすれば、誰でも利用できる。アプリで目的地を選択すると無人の車が迎えに来るので、あとはアプリでドアロックを解除し乗り込むだけだ。
「無人の車に命を預けて大丈夫?」と思うかもしれないが、負傷を伴う衝突事故は人間が運転する車に比べ78%削減できているという。運転手のいない車に最初は違和感を覚えたが、しばらく乗っていると慣れる。英語が不得意でも気軽に利用でき、便利だった。
日本でも、Waymoは公道でのテスト走行を始めている。サービスの開始時期は明らかにされていないが、交通基盤の脆弱な地方でこそ、このようなサービスの普及を期待したい。

参加者レポートより

株式会社タクト野田 野田 照裕

街が無人タクシーを普通に受け入れていることが印象的だった。日本ではタクシーの労働者不足が課題となっている。特に過疎地域では役立つだろう。

三ツ浜汽船株式会社 渡部 徹

センサーをたくさん装備しているが、段差はあまり感知していないのか、ガタガタ道でも結構なスピードで走る。その乗り心地の悪さをジャガーの車体が相殺してくれている感じだった。

おわりに

世界経済を牽引しているアメリカのビジネスや文化に触れ、日本との違いを体感し、多くの発見や刺激を得た1週間だった。特にビジネスについては、果敢にチャレンジし続けないと生き残れないシビアな面がある一方で、顧客や従業員などの関係を重視する面もあることを知った。これは今後の経営において、大きな学びになったのではないだろうか。また、アメリカで活躍している経営者の姿に励まされたセミナー生も多かっただろう。今回の研修旅行での学びを今後の経営に生かし、ぜひとも活躍していただきたい。
最後に、この研修旅行において、多くの方々から貴重な情報や多大なご支援、ご協力をいただいた。本誌面を借りて厚く御礼申し上げます。

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