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物価高は困ったこと、でも賃金と物価の「好」循環とは? (慶應義塾大経済学部 教授 株式会社いよぎん地域経済研究センター 顧問 / 白塚 重典)

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物価高は困ったこと、でも賃金と物価の「好」循環とは?
(慶應義塾大経済学部 教授
株式会社いよぎん地域経済研究センター 顧問 / 白塚 重典)

公開日:2025.09.22

いよぎん地域経済研究センター

 最近、物価上昇が家計の関心事として注目され、政治の場でも議論が活発です。物価高は家計を圧迫する困ったことというのが庶民的な感覚です。


 実際、日本の消費者物価上昇率は、2022年に入り上昇テンポが早まり、この年の春ごろから現時点に至るまで3年以上にもわたって2%の物価安定目標を超え続けています。


 しかし、物価の番人であるはずの日本銀行は、利上げに消極的なようにみえます。実際、24年3月になってようやく長期にわたった大規模緩和政策に終止符を打ち、利上げに踏み切りましたが、その後の利上げは7月と25年1月の2回だけで、政策金利は0.5%にとどまっています。日本銀行は、なぜもっと積極的に物価抑制のための利上げに踏み切らないのでしょうか。


この点、強調されているのは、賃金と物価の「好」循環を定着させ、持続的・安定的に2%の物価安定目標を実現していく必要があることです。たとえば、物価が上がると企業の売り上げが増え、利益も増え、企業は賃金を上げやすくなります。すると家計の購買力が高まり、家計の支出は多少物価が上昇しても増えていくことが期待されます。こうした循環が「好」循環です。


ただ、少し歴史を振り返ってみると、賃金と物価の関係は、1970年代の石油危機の時代には、特に米国と一部の欧州諸国などで、賃金と物価がお互い上昇を追いかけ、スパイラル的に両者が上昇していくことが問題となりました。大インフレの時代と呼ばれた時期です。こうした賃金と物価の「悪」循環を断ち切るための政策処方箋は、大幅な利上げであり、物価安定を取り戻すために、深刻な景気後退と失業者の増加という大きなコストを払う結果となりました。


これに対し、最近の日本の物価高は、当初は円安やエネルギー価格上昇によるコスト上昇、より最近ではコメの値上がりなど、景気と関連しない部分での影響が大きいのも事実です。こういった時に急速な利上げを続けると、仮に物価上昇率を下げられたとしても景気が悪化し、「好」循環の芽を摘むことになりかねません。


今の日本では、賃金と物価は上昇し始めましたが、賃金上昇が物価上昇に追いついておらず、バランスの取れた「好」循環を定着させていく正念場です。緩和的な金融環境を維持し、景気を後押しすることで、名目賃金と実質賃金の両方が着実に伸びていく「好」循環をより持続的なものとしていく必要があります。そのためには、物価上昇率が2%程度で安定していくという予想を人々が共有し、賃金も物価も毎年少しずつ上昇していくことを前提に社会・経済活動が行われるようになっていくかがポイントになります。

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