新卒採用市場は厳しい競争環境続く
~小規模事業者の新卒採用離れが進む~
公開日:2025.09.22
新卒採用は、単に人手を補うだけではなく、企業における中核人材を育てる出発点でもある。新卒採用の充実は人口流出の抑制や地域経済の持続性にも密接に関係しており、若年層の地元定着を促す絶好の機会となる。しかし、IRCが昨年実施した新卒採用に関するmini調査レポートでは、「採用活動を行ったが、採用に至らなかった」と回答した企業が約4割にのぼっており、企業は厳しい競争環境に置かれている。
INDEX
新卒採用を取り巻く現状
最初に労働局のデータや昨年のIRC調査をもとに県内の新卒採用を取り巻く現状をふりかえる。
新規学校卒業予定者の内定状況
新卒就職希望者は、大部分を大学卒と高校卒が占める。県内における2025年3月末時点の就職希望者数は、大学卒が2,867人、高校卒が1,674人で内定率はいずれも100%に近い(図表−1)。ただし、少子化と大学進学率の上昇を背景に高校卒の就職希望者は減少傾向にある。
県内企業への内定率をみると、高校卒は76.1%と大きな変化はないが、大学卒はここ10年で10%近く低下している(図表-2)。内定者数は高校卒、大学卒ともに減少傾向にあるが、高校卒の内定者数の減少要因は前述した就職希望者の減少が大きい。一方で、大学卒の内定者数の減少は内定率の低下が大きな要因となっている。
採用活動が結果に結びつかない要因
昨年のIRCの調査では、県内企業で新卒採用人数が減った理由は「応募人数の減少」が79.1%で最も多い(図表-3)。採用計画に見合った応募数を確保できていないことが、新卒採用における最大の障壁となっている。
応募者数の減少は、新規採用市場が「超売り手市場」となっていることが最も大きい。大学卒、高校卒ともに求人倍率は近年右肩上がりとなっており、人材の獲得競争が激化して、採用が難しい状態が続いている(図表−4)。
アンケート結果の概要
こうした背景から、県内企業における新卒採用の状況を改めて調査し、取り組みや課題を整理する。
新卒採用活動の実施状況
県内企業で新卒採用活動を「実施した」と回答した割合は51.9%となった(図表−5)。地域別では、東予や中予では半数以上の企業が実施した一方で、南予では36.4%と半数を割っている。従業員規模別では100人以上で86.1%、30人~99人では57.4%、30人未満では18.6%となり、従業員規模が小さいほど新卒採用離れが進んでいる。業種別では「金属・造船・機械」「紙・パルプ・紙加工」の割合が高い。
昨年と比較すると、全体では採用活動の実施が10ポイント低下している。また、従業員規模別では、100人以上で増加しているものの、30人~99人、30人未満では低下がみられる(図表−6)。
新卒採用活動の実施率が低下している背景をヒアリングしたところ、「新卒採用者を育てる余裕がない」「新卒採用者はすぐやめる」「新卒採用を続けているが3年間採用実績はない」といった声が聞かれた。
募集状況と採用実績
新卒採用を実施した企業の募集状況を学歴別にみると、大学卒(大学院卒含む)が63.4%、高校卒が66.9%を占めている(図表−7)。新卒採用の対象は大学卒と高校卒が中心で、ほぼ同じ割合となっている。
採用実績では、大学卒で71.2%、高校卒で60.7%が採用に至っている(図表−8)。新卒を採用した企業の割合を昨年と比較すると、大学卒、高校卒ともに増加している。これは新卒採用実績が堅調に推移していることを示している。
一方で、前述したように新卒採用活動を実施した企業の割合は従業員規模の小さい企業を中心に低下しており、新卒採用活動した企業が減ることで、採用実績率が押し上げられた可能性がある。
また、企業へのヒアリングでは、内定辞退者が多いことを懸念する声も聞かれた。
内定辞退
企業へのヒアリングで内定辞退を懸念する声が聞かれたため、今回のアンケート結果から内定辞退を推計した(図表−9)。ここでは、内定者数が採用者数を上回っている企業で内定辞退が発生したと仮定し、応募者の学歴別に発生率を計算した。
その結果をみると、31.9%の企業で内定辞退が発生しており、学歴別では大学卒で42.5%、専門・短大・高専卒で15.6%、高校卒で1.4%となった。高校卒の内定辞退率が低い背景には、学校を経由して就職が決まることが挙げられる。
地域別の採用状況
次に、東中南予別に企業の本社所在地と新卒者の出身地域の関係をまとめた(図表−10)。
新規採用者数は東予、中予に偏っており、全体に占める県内出身者の割合は約6割であった。地域別でみると東予が約5割、中予と南予が約8割となった。
初任給の改定
初任給の支給額を学歴別にみると、いずれも昨春から約3.5%程度の上昇がみられる(図表−11)。東京と比べると低いものの、県内企業において初任給の改定が進んでいる状況が分かる。
一方で、「初任給が高すぎる」といった声も聞かれ、賃上げに係る企業への負担感は増している。
新卒採用活動で重視している取り組み
企業が重視している取り組みで最も多かったのは「イベント、説明会等を通した学生との接触機会の増加」(64.9%)で、次いで「インターンシップ・職場体験」(59.8%)となった(図表−12)。大半の企業がイベントや職場体験での接触機会を重視していることが分かるが、「面接の質の向上」や「内定後のフォロー」などの優先度は低くなっている。
昨年のIRCの調査では、新卒採用者から「面接官への印象が良かったため、入社を決意した」との声が聞かれた(2024年8月号掲載「県内企業における新卒採用の動向及び初任給改定に関する調査」)。面接は企業が採用する人を決める場であると同時に、採用される側である新卒者も企業を見定めている場である。企業が面接の質をより改善することができれば、内定辞退率の低下につながるのではないだろうか。また内定辞退が約3社に1社発生している状況を考えれば、内定後のフォローにより力を注ぐ必要があるだろう。
まとめ
県内企業が新卒者を採用した割合は大学卒、高校卒ともに昨年より増加しているが、従業員規模が小さい企業ほど新卒採用離れが進む傾向がみられた。新卒採用の最大の障壁である応募者数が少ないことや内定辞退の発生などが企業のマインドを下押ししている可能性がある。
東中南予別にみた県内企業の新卒採用者は県内出身者が5~8割を占めており、新卒採用状況が地域経済にとって重要であることを再確認する結果となった。
県内の新卒採用市場では応募者数が少ない状況が続く可能性があり、今後は「採用率を上げる」、「内定辞退を抑える」といった取り組みがカギとなるだろう。今回の調査で企業はイベントや職場体験などを重視しており、実際の採用につながっている声も聞かれた。一方で他の取り組みにおいて新卒者が重視しているポイントとギャップが生じているならば、それを埋める取り組みに活路が見出せるのではないだろうか。IRCでは次号で大学生を対象に実施したアンケートをもとに、企業との意識のギャップについてレポートする予定である。
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