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県内企業のBCP策定率は34.1% ~県内企業のBCPの策定・取組状況~

調査レポート

県内企業のBCP策定率は34.1%
~県内企業のBCPの策定・取組状況~

公開日:2025.09.22

福田 泰三

昨年元日に発生した「令和6年能登半島地震」、同年8月の「南海トラフ臨時情報」発表などの大地震や、豪雨・洪水といった災害、新型コロナのようなパンデミックの発生など、住民の生活はもとより、企業活動に甚大な影響を与える予測困難な事象が増加している。いつ“被災者”となってもおかしくないなか、企業は事業活動を続けていくためにBCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)を策定し、見直していくことがますます重要となっている。今回は、とくに自然災害を中心に県内企業のBCPの策定・取組状況を、アンケートなどをもとにレポートする。

BCPとは

BCPの概念と目的

BCPは、自然災害や新型感染症、その他の緊急事態が発生した時に、
①事業資産の損害を最小限にとどめつつ
② 中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために
③ 平常時に行うべき活動や緊急時における方法、手段などを取り決めておく
計画のことをさす。
図表-1の概念図は、企業・組織が突発的な災害に見舞われた場合の事業の落ち込みと回復の違いを示している。BCP未対応だと事業は一時的に大きく停止し、その後も緩やかにしか回復できない(青色線)。一方で、BCPを事前に準備しておけば、最低限の活動を維持しながら早期に事業を回復させることができる(赤色破線)。

実際、東日本大震災において、BCPを策定していた企業とそうでない企業とでは、明らかな差異が生まれた(図表-2)。とりわけ、最も被害額の大きい「1億円超」の階層では、BCPを策定した企業の売上高は、策定していない企業と比較して4割近く上回っている。この結果は、被害額が大きいほどBCPの有無による影響が顕著になることを示している。

BCP普及の背景と日本企業の策定状況

日本では、2005年に経産省が「事業継続ガイドライン」を発表してBCP策定を促進するようになり、11年の東日本大震災以降、その動きはより活発になった。しかし、23年度末までにBCP策定率を「大企業で100%に近づける、中堅企業で50%以上」とする政府目標には達せず(図表-3)、今後10年で大企業100%、中堅企業80%の策定率を目指すこととしている。

県内企業のBCP策定状況

ここで、県内企業のBCPの策定・取組状況をアンケート結果から整理する。

BCP策定済みの企業は34.1%

自然災害などの緊急事態に備えておくことは「重要」(とても重要+ある程度重要)とする企業が96.3%と大半を占める(図表-4)。一方、BCPを「策定済み」の企業は34.1%と、過去の調査と比較すると策定企業の割合は上昇しているものの(図表-5)、“備えが重要”とする回答割合とはギャップが生じている。

業種別にみると、社会的なインフラ復旧・復興などの重要な役割がある「建設業」で53.5%と策定率が高い(図表-6)。地域別では、南海トラフ巨大地震の発生時に最も被害が甚大と想定される南予地域で策定率が26.3%と低かった。その分、南予は「策定予定」とする割合が36.8%と東中予に比べ高い。従業員規模別では、従業員「300人以上」の企業で70.6%を占めているのに対し、「10人未満」では21.6%と、規模によって大きな差がある。

BCPの対象としている災害・リスクは「地震」がトップ

BCPを「策定済み」「策定中」「策定予定」と回答した企業に、BCPの対象としている災害・リスクを尋ねたところ、「地震」は96.3%とほとんどの企業が対象としている(図表-7)。また、全国的に記録的豪雨や洪水、山林火災などが多発していることから、それに関連する項目を対象とする企業が半数以上となった。

近年、サイバー攻撃の脅威増大(P23データよもやま話参照)や内部不正、情報漏えいなどのリスクも高まっているが、これらをBCPの対象としている企業は一部にとどまる。

策定理由は「従業員の安全確保と雇用維持」が最多

BCPを「策定済み」「策定中」「策定予定」と回答した企業に対してその理由・きっかけを尋ねたところ、「従業員の安全確保と雇用維持」(70.4%)が最多で、「企業の信用力と競争力向上」(42.6%)が続く(図表-8)。そのほか、「報道等からリスク対策の必要性を認識」(38.3%)したことや、「過去、直接的影響を受けた経験があった」(22.8%)ことから策定(着手)にいたったケースもある。

ノウハウ・スキル不足で策定しない企業が多い

BCPを「策定予定なし」と回答した企業に、その理由を尋ねたところ、最も多かったのは「必要なノウハウ・スキルがない」(63.6%)で、“ヒト・モノ・カネ”に関する項目が続く。数は多くないながら、「自社の企業規模では必要ない」(23.6%)や「自社の業種・業態では必要ない」(14.5%)、「緊急時に考える(平時に考えても意味がない)」(12.7%)といった回答も見受けられた。

企業がBCPの策定を進めるために

自然災害などの緊急事態に備えておくことが重要だとする企業は多いが、その意識を「BCPの策定」にまでつなげていくためには、以下の点を注意しておくと良いだろう。

・備えの必要性を認識する(危機意識を持つ)
・自社の備えの状況をチェックする
・策定運用指針や支援機関を活用して策定する
・現場責任者も交えて策定する
・サプライチェーン(代替手段)を考えて策定する

備えの必要性を認識する(危機意識を持つ)こと

東日本大震災の事例(図表-2)にもあるように、備えの有無が企業の命運を左右する。次頁図表-10のように、阪神淡路大震災ではBCPの有無が事業継続はもとより、従業員の安全確保や雇用維持に大きな差が生まれたことがわかる。また、能登半島地震で被災した企業が、BCP対策が不十分であったことを反省する声もある。
危機時は正常な判断ができないことも多く、平時におけるBCP対策の重要性を改めて認識する必要がある。

【能登半島地震被災地企業の声】
・元日であったため、安否確認しかできなかった(確認にも時間を要した)
・緊急連絡網はあるが、具体的な行動計画がないため、BCPの策定の必要性を感じた
・防災備蓄品を社屋内にのみ設置していたが、建物の損壊があり使えなかった
・長期休業期間中における災害発生時の対応・規定が曖昧で機能しなかった

チェックリストで自社の状況を確認

ここで、BCP策定を具体的にどう進めれば良いか考えよう。まずは、図表-11の(1)~(20)の項目をチェックすることをお勧めする。「必要なノウハウ・スキルがない」といった企業からは「どんな災害を対象とすれば良いのか分からない」、「何から手を付ければ良いのか分からない」といった声も聞かれる。このチェックリストは、「中小企業BCP策定運用指針」(中小企業庁)にも示されており、幅広いリスクに対応している。まずは自社が置かれている状況をチェックし、「いいえ」や「不明」にあてはまる項目から優先的に取り組んでみてはいかがだろう。
アンケートで、多くの企業が「はい」と回答している項目は、「(2)従業員との連絡体制」(85.7%)、「(6)事業所周辺の地震や風水害の被害に関する危険性の把握」(84.3%)、「(12)1ヵ月分程度の事業運転資金に相当する資金の確保」(80.2%)、「(13)情報のコピー、バックアップ」(89.4%)だった。一方、未対応の企業が目立った項目は、「(4)定期的な避難訓練や初期救急」(60.8%)、「(8)代替手段の確保」(60.8%)、「(11)災害対策、復旧対策制度融資の把握」(69.1%)、「(20)取引先および同業者との相互支援の取り決め」(66.4%)だ。
20項目のうち、「はい」の数が16個以上であれば、BCPに則った取組みが進んでいるとされるが、それに該当する企業は11.1%にとどまっている(図表-12)。すでにBCPを策定している企業も、このチェックリストを活用して未対応の部分を再確認し、実効性の高いBCPへと見直していくことが重要だ。

策定運用指針や支援機関を活用

BCPには、正確で詳細なマニュアルが必要だと思われがちで、それが負担となり手が止まる企業も少なくない。
そうした場合には、中小企業庁の『中小企業BCP策定運用指針』の入門コースや、『事業継続力強化計画(通称:ジギョケイ)』認定制度を活用する方法がある。所定の様式があり、A4用紙10枚程度で作成でき、BCPの入門編として比較的取り組みやすい。愛媛大学防災情報研究センターの二神透副センター長は、「『ジギョケイ』は策定のハードルも比較的低く、中小企業でも認定を受けやすい。これをBCP対策の最初のステップとしてもらいたい」と話す。ちなみに、県内で『ジギョケイ』の認定を受けているのは累計906先(2025年4月末時点)となっている。
策定の際は、災害時に「いつまでに」「何を」「誰が」「どこまで(どのように)やるか」を数字や行動に具体化させることがポイントだ。作業がうまく進まない場合は、県内各商工会議所や商工会などの支援機関に相談することで、計画策定や申請のサポートが受けられる。
こうした基礎的な取組みからスタートし、将来的には『中小企業BCP策定運用指針』の中級・上級コースに発展させることができれば、BCP対策はより強固なものになるだろう。

現場責任者も交えた策定

一般的に指揮命令系統は上意下達だが、緊急事態でそれに固執すると、対応が後手に回る恐れがある。部門や立場によって優先すべき事項が異なるため、現場の視点を反映させることが重要だ。能登半島地震においても、「本社役員のみで構成された災害対策本部と、実働メンバーとの間で認識にズレがあった」という現地企業もあるようだ。対策本部に現場や各部門の代表を入れる、現場の判断を優先させるなどの体制も検討しておきたい。

サプライチェーン(代替手段)を考えた策定

図表-11のチェックリストで、「(8)代替手段の確保」や「(20)取引先および同業者との相互支援の取り決め」ができていない企業は6割を超える。しかし、自社に全く問題がなくても危機が来るのがサプライチェーンリスク対応の難しい部分でもあり、重要な部分でもある。図表-10の事例にあるように、代替手段が確保できているか否かでその後の事業に大きな影響が及ぶ。
取引先全先のBCPの状況を調査することは非現実的だが、仕入の主要先や新規先を中心に図表-11のチェック項目の対応状況を確認し、必要に応じて代替先を確保しておきたいところだ。

策定したBCPをうまく運用するために必要なこと

策定したBCPは、時間とともに環境が変われば計画の実効性が低下する。以下の事例も踏まえながら、BCPの実効性を高めるために平時の運用面で気を付けておきたい点を述べる。

従業員への周知

アンケートでBCPを「策定済み」と回答した企業のうち、従業員全員に内容を周知しているのは55.7%だった(図表-13)。これは、未策定企業を含む全体でみると18.0%にすぎない。せっかくBCPを策定しても、周知が徹底されていなければ実効性は担保できない。
災害時の要となる初動対応、とくに人員参集は、過去の事例で参集率が30%程度にとどまるといわれる。従業員個人に“家族優先”の心理が働くことに加え、「災害時に勤務先で誰が何をすべきか」が周知されていないことが参集率低下の一因だと考えられる。
とりわけ、人員の入れ替わりが多い企業・部署では、異動や採用の都度、BCPの内容を繰り返し周知することが欠かせない。

安心できる観光地の実現を目指す ~道後温泉旅館協同組合~

組合で「事業継続力強化計画」認定取得

南海トラフ地震を想定した施設の耐震問題が、道後温泉旅館協同組合の課題であった。各施設が建て替えを進め、解決に目処がついた後、新型コロナが拡大。2020年5月の組合加盟施設の宿泊者数が前年比98%減と壊滅的な状況になった。この非常事態で、コロナ禍の出口を見据えた事業継続の必要性を感じ、地震など自然災害対策に向けた一体的な取組みを行う機運が高まった。そこから、愛媛県中小企業団体中央会の支援を受け、組合に加盟する17社で地域連携型の事業継続力強化計画(ジギョケイ)策定に取り組んだ。

アマチュア無線での連絡を想定

当組合は、設立当初から“相互扶助”(=共助)の考え方が浸透していたが、ジギョケイの策定によりそれがはっきりと明文化された。自治体・消防との連携、宿泊者の安全確保や帰宅困難者への対応、取引先など関係各社への協力要請など、各事業者が連携して対応にあたることを定めている。
特徴的なのは、アマチュア無線を使って被害状況の確認や一時待避所への避難誘導を行う点で、全国でも例を見ない。東日本大震災など、過去の大災害で携帯電話を使っての連絡が困難になったことを鑑みての取組みだ。各事業者に少なくとも1人のアマチュア無線資格技士を置くことを推奨し、現在29名が資格を保有している。

組合主導での道後地区合同防災訓練

毎年11月、当組合が主導して合同訓練を実施している。参加者は当組合員企業だけでなく、松山市や消防署、商店街組合、学校や病院など“面”での活動で、アマチュア無線による避難誘導や、地震・煙体験やトリアージ訓練などを実施。雨天時は傘を使わずカッパを着用する、無線情報の取りまとめ本部は当組合に設置する、など都度課題を抽出し、次に活かしている。

さらなる連携強化に向けて

道後地区は、『温泉』『宿泊施設』『商店街』が一体として成り立つ観光地であり、どれが欠けても地区全体の経済に大きな打撃が及ぶ。今後は、「エリアとして生き残っていくために、ジギョケイに入っていない事業者を含め、さまざまな関係者に輪に加わってもらえるように働きかけたい」と奥村敏仁前理事長は話す。観光客にとっての前提条件である“安心・安全”が担保される取組みがより一層進むことが期待される。

道後地区合同訓練の様子

定期的な訓練の実施

BCPは策定して終わりではなく、いざという時の対応が自然に出るよう、訓練を重ねて体に覚えこませる必要がある。しかし、図表-11の(4)の通り、 定期的な訓練を実施している企業は36.4%と、4割にも満たない。平時からの訓練を通してPDCAサイクルを回していくことが重要だ。
また、毎回同じ訓練では効果が薄れるため、シナリオ変更や、抜き打ち訓練などの工夫もしておきたい。製造現場では実地訓練が難しい場合もあるが、図上(机上)訓練で異なるパターンを短時間で複数こなす、「今、地震が来たら」という想定のもとで安全確認ルートや機械停止手順をその場で再確認するなど、できることはあるはずだ。

【訓練で想定するシナリオの一例】
《時間帯》
⃝業務時間中(昼間)
⃝業務時間外(夜間、休日)
⃝出退勤時間帯 など
《被災場所》
⃝建物の1階部分が浸水(火災)
⃝建物の上層階で火災
⃝機械稼働中の工場で地震(火災)
⃝出入口(避難口)の倒壊・通路封鎖
《その他》
⃝電気・通信の遮断、混線
⃝来客者の有無(避難誘導など)

策定したBCPの見直し

訓練から見えてくる課題などを整理し、BCPを定期的に見直していくことも重要だ。
BCPを「策定済み」の企業に、その見直し頻度を尋ねたところ、最も多かったのは「2~3年ごと」で34.3%だった(図表-14)。また、「見直していない」(18.6%)企業の多くは、策定時期が2020年以降だったことが影響していると考えられる。しかし、南海トラフ巨大地震の新たな被害想定が今年3月に公表されたが、そうした外部情報のアップデート時や、人事異動や設備更新、仕入・販売網の変化など社内環境の変化時には、あわせてBCPを見直しておきたい。

連携体制を整え“共助”へ

大災害が発生した場合、広範なエリアで同時に被災する可能性が高く、避難所・道路・通信などのインフラを奪い合う状況が起きてもおかしくない。そうした事態を防ぐためにも、工業団地や商店街単位(組合・団体など)で物資や施設を融通し合える体制づくりが重要だ。平時から顔の見える関係構築と情報交換が出発点となる。
前頁の道後温泉旅館協同組合の事例は、定期的な訓練と改善、連携に至るまでのPDCAが回っている好例といえよう。
企業単独での“自助”や、政府や自衛隊の支援と言った“公助”だけでは、スピード感のある復旧・復興は実現できない。地域内や他の地域、サプライチェーン間で支援し合う“共助”こそが、BCPの実効性を高め、企業の生存力を強化するカギとなる。

おわりに

BCPを策定している企業は年々増えており、アンケートでは3割を超える水準となったが、過去の災害からBCPの有無が被害の軽減や回復に大きく影響することを考えると、十分な水準とは言えない。また、企業規模の小さい企業ほど策定が遅れており、策定した企業においても幅広い項目に対応したBCPが策定できている企業は1割程度、従業員に周知できている企業は5割程度であるなど、問題点は多い。
BCPは策定や見直しなどの労力を伴い、それ自体が利益に直結する訳ではないため、後回しになっている可能性がある。しかし、一日でも早い策定や見直し、訓練の継続が、企業自身はもちろんのこと、従業員をはじめとするステークホルダー、ひいては地域を守ることにつながる。本稿が、自社の備えの状況を見直すこと、事業継続体制づくりのきっかけとなれば幸いだ。

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