県内企業の約9割がコスト増加の負担感あり ~コスト増加を前提とした経営資源の強化・活用を~
公開日:2026.02.09
INDEX
要旨
1.中小企業を取り巻くコスト環境は、企業物価の上昇や人手不足による人件費上昇圧力などから、厳しさを増している。県内企業へのアンケート結果からも、原材料費と人件費が負担を感じる二大項目となった。
2.コスト増加の影響を感じている企業は約9割に上り、その多くが利益率の低下に直面している。現状が続くと、コスト増加への対応余力がさらに低下する恐れがある。
3.今後もコスト環境の改善が厳しいなか、企業には生産性向上や高付加価値化が求められるが、専門人材の確保やDX推進など、より高度な経営資源で課題を抱えていることも明らかになった。
4.中小企業は日本経済の基盤であり、その持続的発展は地域経済と雇用維持に直結する。経済環境が需要不足から供給不足へと変化するなか、企業にはコスト増加を前提とした経営資源の強化・活用が急がれる。
はじめに
日本経済は名目GDPが600兆円を超え、賃上げ機運も定着するなど、着実にデフレ脱却に向けて進んでいる。一方で、物価と賃金がともに上昇する環境は、企業にとって大きなコスト負担となる可能性がある。日本が成長力を取り戻すうえで、実質賃金の改善と内需の回復が欠かせないなか、経済基盤と雇用を支える中小企業には、厳しい環境ながらも低価格競争体質から高付加価値経営への転換が期待されている。
そこで今回は、コスト増加が県内企業に及ぼす影響と問題点を明らかにし、今後の方向性を探る。
中小企業を取り巻くコスト環境
1.企業物価の上昇
企業間の取引価格である企業物価指数の対前年比推移をみると、2021年半ば頃から上昇し始め、2022年10月に10%台に達した後、足元では3%前後に落ち着いている。一方、販売価格に相当する消費者物価指数(除く生鮮食品)は、2022年のピーク時でも4%台にとどまっており、その後も同指数の対前年比は企業物価指数を大きく下回って推移してきた(図表−1)。直近の前年比はようやく同程度に収まってきたが、長らく企業は仕入コストの上昇分を販売価格に十分転嫁できていなかったことがうかがえる。
2.人件費の上昇圧力
全国の有効求人倍率の年度平均推移をみると、2018年度に1.62倍と直近15年間のピークに達した後、2020年度にはコロナの影響で1.10倍まで低下した。経済活動が再開するにつれて再び上昇し始め、足元では1.30倍前後の水準を維持している。また、新規求人に対する充足率は一貫して低下傾向にあり、2024年度は11.5%と15年前の約3分の1にまで低下している(図表−2)。こうした人手不足感の高まりは、企業にとって人件費の上昇圧力となる。
コスト増加が県内企業に及ぼす影響
上記のような中小企業をめぐるコスト環境の変化が県内企業に及ぼす影響を把握するため、アンケートを実施した。
1.最もコスト負担を感じている項目
全体では、「人件費」(62.5%)、「原材料費」(56.1%)が二大項目となり、他を大きく上回った(図表−3)。部門別にみると、製造業では原材料費が77.3%で最大の負担となり「食料品」では9割を超える。非製造業では人件費が63.1%と最も高く、対人サービスでより高い傾向がみられた。
また、建設の「外注費」や運輸の「燃料費」、旅館・ホテルの「光熱費」で割合が突出して高く、業種の特徴がみられた。
2.コスト増加が与える影響度合い
全体では、「大いに影響している」が44.2%、「やや影響している」が45.6%で、影響している割合は89.8%と9割に上る(図表−4)。業種によって影響度合いの強弱はあるものの全業種で影響している割合は8割を超えており、コスト増加は業種を超えた問題といえる。
従業員数別でも傾向に違いはみられず、企業規模に関係なく影響を及ぼしている。
3.コスト増加の具体的な影響
「影響している」と回答した企業に具体的な内容を尋ねたところ、全体では「利益率の低下」(76.2%)が最も多い(図表−5)。部門別でみても共通しており、現状が続くとコスト増加への対応余力がさらに低下する恐れがある。非製造業では、「人手確保」(17.3%)が比較的高い。人件費を負担と感じる割合が高いなかで、人手確保のためにさらに人件費を上げざるを得ない状況が懸念される。
従業員数別では、「21~50人」で「利益率の低下」(88.6%)が比較的高かった。
コスト増加の影響度合い別に2025年下期実績見込みと2026年上期見通しの景況感をみると、影響度合いが大きいほど「悪い」と回答した割合が高い(図表−6)。アンケートの自由意見でも、増収見込みでありながら原材料費や燃料費、賃金の上昇見通しから慎重なコメントの企業が多く見受けられた。
4.取り組みたいが未実現の項目と阻害要因
(1)未実現の取り組み(図表−7)
現在のコスト増加に対応するため、企業が取り組みたいと考えながらも実現できていない項目を尋ねたところ、全体では「専門人材確保」(45.1%)が最も多く、「DX推進」(28.2%)「教育・研修等の人材投資」(27.3%)が続く。コスト増加は、より高度な人材獲得と将来のための育成、足元でのデジタル化を困難にしている現状がうかがえる。
部門別にみると、製造業では、「新規事業・新商品開発」「設備投資」が全体を上回っており、将来への投資が抑制されている恐れがある。非製造業では人材面と「DX推進」が全体を上回っており、人的資源やデータ活用の遅れが懸念される。
従業員数別にみると、「101人以上」で「DX推進」(39.8%)が全体を約12ポイント上回る。大企業との競争上、DXを進める必要性に迫られているが、実現できていない可能性がある。
(2)実現を阻害する要因(図表−8)
実現できていない項目別に阻害要因をみると、いずれも「人材不足」が最も多く、「情報・ノウハウ不足」が続く。専門人材が不足することで、有効な情報の把握ができない、あるいは情報収集や社内のノウハウ蓄積が進まない、などの影響が考えられる。未実現の項目として割合の高かった3項目のうち、特に「DX推進」では「人材不足」と「情報・ノウハウ不足」がほぼ並んでおり、その影響を強く受けていると考えられる。
一方で、「資金不足」を阻害要因とする割合は全体的に低い結果となった。情報やノウハウが不足することで取り組みの具体化が進まず、資金面の検討に入る前段階で止まっている可能性がある。
5.行政や支援機関に期待すること
全体では「補助金・助成金等の資金支援」(55.8%)が最も多く、「人材確保・育成等の人材支援」(43.7%)が続く(図表−9)。今回の調査で、コスト増加の影響では「利益率の低下」、未実現項目の阻害要因では「人材不足」が高かったことが背景にあると考える。
阻害要因別にみると、厳しい収益環境から、直接的な「補助金・助成金等の資金支援」が最も高い(図表−10)。また、人材と情報・ノウハウの不足を背景に、「人材確保・育成等の人材支援」「支援制度に関する情報提供」への期待も高く、資金面以外の外部支援も欠かせないことが示された。
今後の方向性
今後も企業を取り巻くコスト環境は厳しい状況が予想され、企業には生産性や付加価値の向上が求められる。一方で、そのために必要な専門人材や情報・ノウハウ、資金などの充実はより困難になっている。
こうした環境のなかで、人材確保・育成支援への期待の高さが示すように、中小企業には足元での人材確保だけでなく、継続性の観点から自社育成(リスキリング)が必要である。外部支援を活用しながら自社育成の仕組みを構築することは、将来の人材不足緩和と付加価値向上の一助となるだろう。
また、情報・ノウハウ面でも行政や支援機関への期待が高い。特にデジタル分野は自社だけの取り組みには限界があり、後回しになりがちである。企業の高付加価値化のきっかけとなるような、より専門的かつ実践的な支援の拡充が求められる。
おわりに
中小企業をめぐる昨今のコスト環境と今回の調査から、県内企業のコスト負担は大きく、収益性や景況感に多大な影響を及ぼしていることが示された。また、専門人材の確保やDX推進に関する情報・ノウハウなど、より高度な経営資源で課題を抱えていることも明らかになった。
中小企業は日本経済の基盤であり、その持続的発展は地域経済と雇用維持に直結する。社会経済が需要不足から供給不足へと変化するなか、企業にはコスト増加を前提とした経営資源の強化・活用が急がれる。
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