人材育成のすゝめ
公開日:2026.01.29
はじめに
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少が深刻化し、企業を取り巻く働き手不足の課題が一層顕在化している。こうした社会環境の変化に対応するため、業務効率化やデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるとともに、リスキリングを含めた人材育成の取り組みが急務である。人材育成は企業の持続的成長に不可欠な要素であるだけでなく、人材確保の面からもますます重要性を増している。
本レポートでは、人材不足の課題に対して根本的かつ効果的な解決策を模索する観点から、「企業の人材育成の現状」や「社員教育の在り方」に焦点を当て、組織の持続的成長を支える基盤としての教育戦略の重要性について考察を行う。
人材育成のニーズ
近年の全国的な傾向
図表1は、2025年版中小企業白書から、中小企業における5年前と比べた人材育成の取り組み状況についてみたものである。
全体的には約半数の事業者が人材育成の取り組みを増やしていることが分かる。また、従業員規模別では、規模が大きい事業者は「増やした」割合が高い一方で、30名以下の事業者ではあまり増えていない傾向にある。
県内企業の傾向
IRCでは、階層別(経営層/管理職/若手・中堅など)や職種・分野別(経理や人事、ビジネススキル)のビジネスセミナーを開催している。図表2は、2011年からのビジネスセミナーの開催回数と参加者の推移を示したものである。
新型コロナウイルス感染拡大の影響等による一時的な参加者数減少はあったものの、長期的にみると、研修数・参加者数は増加している。時代の流れとともに多様化する企業の人材育成ニーズが表れている。
人材育成の効果
企業活動に及ぼす効果
図表3は、2025年版中小企業白書から、人材育成の取り組み状況別に、直近3年間で採用した従業員の定着状況をみたものである。5年前と比べて人材育成の取り組みを「増やした」事業者は、「増やしていない」事業者よりも、「定着率が3割以上」と回答した割合がやや高い。
また、図表4は同様に売上高の変化率および付加価値額の変化率を示したものである。
取り組みを「増やした」事業者では、「増やしていない」事業者に比べて両指標とも高くなっている。一概には言えないが、この結果から、人材育成の取り組みが業績向上につながっている可能性がみてとれる。
採用活動への影響
次に、学生の目線からみてみよう。図表5は、IRCが2025年に実施した大学生アンケートの結果である。
近年、学生は就職の際に自身の「やりがい」や「達成感」を重視する傾向にあるが、「就職先に求めること」では、職場の雰囲気の良さ、安定性・将来性などに次いで、「教育研修の充実」を挙げる学生が9割近くを占めていることがわかる。人材育成への取り組みやその発信が、実は採用にも大きな影響を及ぼしていると考えられる。
セミナー参加先アンケートの結果
人材育成への取り組み状況および意識調査を目的に、IRCビジネスセミナー参加企業を対象として2025年8~9月にアンケートを実施し、204先中58先より回答を得た。
年間計画を策定しているか
「年間での教育・研修計画を策定しているか」という質問に対し、何らかの計画を策定し、それをもとに教育研修を実施している企業は6割弱となった。(図表6)
また、この結果をアンケート回答先各社のセミナー受講者数に置き換えて算出したものが図表7である。その比率は20%以上と大きく差があり、「年間の教育・研修計画を策定している企業は、セミナーの受講人数も多い」結果となっている。
育成に力を入れている階層
また、特に育成に力を入れている階層を尋ねたところ、最も多かったのが管理職、次いで若手社員、中堅社員、新入社員の順となり、管理職以下の層では大きな偏りのない結果となった。(図表8)
その理由としては、「今後の会社を担っていく立場の社員であるため」「将来的な経営層・管理者の育成のため」「意識醸成のため」に加え、「離職防止のねらい」もみられた。
実際に2025年度の実績において、受講者数が定員に対して高い割合を占めたセミナーをみても、その多くが「管理職」「若手・中堅社員」向けの階層別研修となっていた。
県内企業の事例
アンケート結果をもとに、「年間計画を策定している」と回答された2社に対して、人材育成の取り組みについてヒアリングを行った。
まずA社では、対象者や目的およびカリキュラム内容に応じて、社内外の研修が使い分けて活用されている。基本的には、参加セミナーおよび受講者の選定から事後フォローまでが各部門長に任されている。 また、製造業という特性上、社外での研修は他業種との貴重な交流機会となっており、外部からの刺激を受けることで参加者自身のモチベーションの維持・向上につながっている、とのことであった。
一方、主に外部研修への参加が中心となっているB社では、場合によっては直属の上司からの勧めもあるものの、基本的に参加希望を社員に募る挙手制とされている。参加者からは、「ワークが多く他の参加者と交流・意見交換できるのが良い」との感想が上がっていた。
両社の話では教育計画の策定において、今後必要な取り組みや社外研修に求めるもの、参加の目的などが明確化されていることが分かった。また、受講後はレポート作成や受講者が講師を務める勉強会の開催など、学びを振り返り共有する機会が設けられている。
「従業員にいかに自発的・意欲的に学ばせるか」「研修後に実務へどのように活かし、継続させるか」は人材育成に取り組む多くの企業が共通して抱える課題であるが、まずは「育成方針」「会社が従業員に期待する姿」を明確にし、そのうえで試行錯誤しながら自社・各部門にあった運用方法を模索していくことが重要であるとあらためて感じた。
異業種交流のすゝめ
ヒアリング結果にもあったように、異業種との交流ニーズは高いようだ。ビジネスセミナーにおいては、1日完結型のセミナーよりも、同じメンバーで複数回実施するシリーズセミナー(管理職3回/主任係長・若手社員2回)の満足度が高い傾向にある。一定期間体系的に学ぶこと、事前・事後課題が設定されることで、日々の行動や業務への取り組みを見直すことが意識醸成・改善につながっているとともに、受講者からは「他社のメンバーと意見を交わすことで視野が広がった」との感想が多く聞かれる。
またIRCでは、次代を担う若手経営者・後継者を対象とした1年間の「ニュー・リーダー・セミナー」、経営幹部および将来の幹部候補を対象とした半年間の「幹部社員セミナー」を開講している。これらのセミナーは、経営の視点で考え行動するために必要なスキルを、同じメンバーと一定期間継続して学ぶプログラムだ。
後継者・幹部社員という同じ立場で、異業種企業との交流を通じてつながりができることが、参加者自身と参加企業の双方から参加メリットとして挙げられている。特に幹部社員セミナーでは、全参加者のうち7割以上が過去の参加企業からのリピート参加となっている。
おわりに
企業における人材育成施策が、人材の定着率、採用、および売上高・付加価値の向上に対して影響を及ぼす可能性が示唆された。
ヒアリングを行った両社の取り組みに共通するのは、計画的な教育機会の提供と、社員一人ひとりの学びを尊重した運用にある。これからの企業に求められるのは、「何をどう学ばせるか」だけでなく「得た学びをどのように現場の実務に結びつけ、組織の成長へとつなげるか」であると痛感した。
それを実現するためにも、今後は現場の声に耳を傾けながら、自社にとってより効果的な人材育成を追求していく姿勢が、企業競争力の源泉となっていくことだろう。
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