【ベトナム】
日本とベトナム、共通する「信仰心」
公開日:2026.01.30
INDEX
はじめに
近年、地方都市からの直行便が増えたことや、円安の影響もあり、欧米諸国への旅行と比べると物価は比較的安く、観光インフラも整ってきていることから、旅行先としてベトナムが選ばれる機会も増えているように感じます。
私自身、ベトナムでの生活も3年目を迎えましたが、旅行や出張でこの国を訪れた日本人に感想を聞く中で、「不思議と肌が合う」と感じたという意見を何度も耳にしてきました。この感覚は、同じアジアの国で文化や顔立ちが似ているから、という理由だけでは説明しきれないように思います。
クリスマスや旧正月(テト)、そして宗教観を切り口に、「不思議と肌が合う」と感じる理由について、ベトナム駐在員の視点からお伝えできればと思います。
クリスマスと正月の「グラデーション」
日本と同じように、ベトナムでもクリスマスが近づくと、街の至る所が華やかな装飾で彩られます。ベトナムのキリスト教徒は全体の数パーセント程度とされていますが、クリスマスシーズンになると、信仰の有無にかかわらず多くの若者が街へと繰り出します。教会の前では写真撮影を楽しむ人々で賑わい、サンタクロースの衣装を着た子どもたちがバイクに乗る姿や、車にトナカイの角をつけて走る様子も街中で見られます。
日本では「12月25日まではクリスマス、26日からは一気に門松を立てて正月モードへ」と、気持ちを切り替える方が多いかと思います。
一方、ベトナムではその境目がとても緩やかで、クリスマスの余韻を楽しみながら次の祝祭へと自然につながっていくのが印象的です。
旧正月(テト)へ続く長い祝祭
ベトナムの新暦正月(1月1日)は祝日が1日しかなく、あくまで「通過点」に過ぎません。
現地駐在員の多くも、1月2日が平日であれば通常どおり出勤します。しかし、約1カ月後に訪れる旧正月(テト)に向けて、社会全体は一気に年末モードへと切り替わっていきます。
この時期、企業は挨拶回りに追われ、製造業では物流がほぼ停止するため、テト前まで現場は非常に慌ただしくなります。テト前後の企業訪問には特に配慮が求められ、これが現地では暗黙のルールとなっています。
一方で、街の雰囲気はどこか穏やかです。クリスマスが終わってもイルミネーションはすぐには片付けられず、そこにテトの装飾である桃の花や黄色い梅の花が重なっていきます。こうして、約1ヵ月半にわたり街全体が祝祭の空気に包まれ続けるのです。外来の文化を楽しみながら、本命の伝統行事へ向けて徐々に気分を高めていくこの柔軟な姿勢は、年中行事をイベントとして楽しむ日本人の感覚とよく似ていす。
信仰心がもたらす親和性
2019年のベトナム国勢調査では、無宗教と回答した人が全体の約7割を占めています。しかし、これは彼らが「無神論者」であることを意味するわけではありません。実際にベトナムの家庭や商店を訪れると、ほとんど例外なく祭壇が設けられ、日々線香が手向けられています。
満月や新月の日には、アオザイ姿の女性たちがお寺に参拝し、家族の健康や商売繁盛を祈る姿も珍しくありません。
多くの人は自らを「熱心な仏教徒」と強く意識しているわけではありませんが、祈りはごく自然に生活習慣の中へ溶け込んでいます。信仰は声高に主張するものではなく、日々の営みの一部として静かに続いているのです。
「自分は無宗教だと言いながら、お盆には墓参りをし、困ったときには神仏に手を合わせる」という日本人の感覚は、ベトナム人の宗教観とほぼ同じだといっても過言ではありません。
ASEAN唯一の「大乗仏教」であるベトナム
東南アジアの多くの国では、自分を磨いて悟りを開く仏教が一般的ですが、ベトナムは日本と同じ「大乗仏教」の流れをくんでいます。自分だけでなく、周りの人の幸せを願ったり、ご先祖様を何より大切にしたりする教えです。こうした心の持ち方が日本と似ているからこそ、私たちは言葉が完璧に通じなくても、どこか深いところで「肌が合う」と感じるのかもしれません。
おわりに
ベトナムと日本の間には、経済的な利害関係だけでは説明しきれない、どこか通じ合う感覚があります。それは、新しい文化や外来の行事を柔軟に受け入れながらも、家族や先祖、日々の祈りといった根本的な価値観を大切にし続けている点にあるのではないでしょうか。
日本とベトナムの関係は、単なる「友好国」や「ビジネスパートナー」という枠を超え、互いの生活感覚や心のあり方を理解し合える関係へと、変化しています。現在、日本には多くのベトナム人実習生の方々が暮らしています。時折、一部の実習生に関する否定的なニュースに触れることもありますが、ベトナム人の本質は、まさに本稿で述べてきたような価値観の中にあると、私は感じています。
今後、両国の関係が経済面にとどまらず、人と人とのつながりという面でも、より一層深まっていくことを願っています。
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