【法務編】
カスタマーハラスメント対策の義務化
公開日:2025.12.18
Q. 客から従業員に対するカスタマーハラスメントが問題になっていますが、事業主として気を付けておくことはありますか
A. 令和8年中に施行予定の改正労働施策総合推進法において、カスタマーハラスメントを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となります。
厚生労働省が事業主の取るべき措置等に関する指針の策定を進めていますので、指針を参考に対策を検討するとよいでしょう。
INDEX
カスタマーハラスメントの定義・具体例
職場におけるカスタマーハラスメント(以下「カスハラ」といいます。)とは、職場において行われる①顧客等の言動であって、②その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいいます。
顧客等からの苦情の全てがカスハラに該当するわけではなく、客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、カスハラには当たりません。また、「顧客等」には、取引先の担当者も含みますので、自社の事業を行ううえで取引先に対しカスハラをしないよう注意する必要があります。
カスハラの典型例としては次のようなものがあります。なお、実際にカスハラに該当するかは個別事案の状況によるので、留意が必要です。
・労働者のプライバシーに関わる要求
・契約内容を著しく超えたサービスの提供や契約金額の著しい減額の要求
・商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求
・身体的な攻撃(暴行、傷害等)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要、盗撮・無断撮影等)
・大きな声をあげて労働者や周囲を威圧したり、反社会的な言動をすること
・不必要な質問や電子メール等を繰返し送り付けるなど、継続的・執拗な言動
カスタマーハラスメントへの対応方法
指針案では、事業主は、カスハラの内容及びあらかじめ定めたカスハラへの対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知することとされ、具体的な対処方法として次のような例示がされています。
・労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと
・可能な限り労働者を一人で対応させないこと。また、必要に応じて当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること
・顧客等とのやり取りを録音・録画すること。なお、録音・録画に当たっては個人情報保護法等を遵守し、顧客等の個人情報を適切に取り扱うこと
・労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること
・暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
・現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと
・法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること
カスタマーハラスメント対策義務の遵守の重要性
事業主が適切なカスハラ対策を取らず、労働者がカスハラの被害に遭った場合、事業主は安全配慮義務違反を理由に労働者に対し損害賠償義務を負う可能性があります。事業主にとって、指針に沿ったカスハラ対策を取る負担が大きいことは否めませんが、カスハラ被害が発生した場合の損害賠償や離職、風評被害等のリスクを考えると、カスハラ対策を定めておき、カスハラに適切に対応できる体制を整えておくことは重要です。
具体的なマニュアルについては、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を定めた東京都が業界団体向けの共通マニュアルと事業主向けの事業者マニュアルの雛形を公表しています。
(https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/plan/kasuharamanual/index.html)
また、東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を受けて、各業界団体において会員向けマニュアルの策定が進むことも予想されます。これらのマニュアルを参考に、自社におけるカスハラ対策を定めるようにしてください。
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