【税務編】
給付付き税額控除
公開日:2025.12.18
Q. 昨年の参議院選挙あたりから「給付付き税額控除」という言葉を耳にするようになりました。どのような制度なのでしょうか。
A. 給付付き税額控除制度については、2012年に政府の税制調査会で議論されていましたが、その後進展がない状態でした。今回の選挙をきっかけに、中低所得者向けの支援策として注目され、改めて導入に向けての検討が始まりました。
制度の内容
日本では、税金は財務省、社会保障は厚労省が主体となって扱い、子育て支援などの給付金は内閣府などが主管し自治体を通じて支給されています。給付付き税額控除とは、これらの制度を一体的なものとして設計されるもので、新しい体系の制度と見ることができます。
具体的には、従来の減税措置ではその人が負担した税額の範囲内での還付までしかできませんが、この制度を利用すれば、還付税額を超えて給付を行うことが可能となります。
制度の目的
東京財団シニア政策オフィサーの森信茂樹氏によれば、この制度は下記のような体系に分類されています(すでに導入された国を記載)。
①勤労税額控除と言われるもので自助努力による生活を支援するもの(米国、英国)
②児童税額控除として子どもの数による税額控除等子育て支援に対応するもの(米国、英国、カナダ)
③社会保険料負担軽減税額控除として低所得層の税負担や社会保険料負担を緩和するもの(オランダ)
④消費税の逆進性対策税額控除として基礎的生活費の消費税を低所得層に対して還付するもの(カナダ)
導入の課題
①正確な所得と資産等の把握
税の還付だけでなく給付まで伴うことから、国民の所得と資産、家族構成などの個人情報を正確に把握することが必要です。2016年に導入されたマイナンバーを活用することになると思われますが、預金口座の紐付けなどさらに詳細な情報をリンクさせることが前提となります。
②不正防止
導入されている諸外国では不正な事例が発生しています。その事例を参考に、日本の実態に合わせた対策が必要です。
③行政の執行対応
すでに述べたように、給付付き税額控除に関連する官公庁は多岐に渡ります。現在の体制に合わせて制度設計を行うのか、まったく新しい形にするのか、審査や事後の調査をどの部署が担当するのか、官公庁の相談窓口、税理士や社会保険労務士といった支援体制をどのように構築するのかという問題があります。
④事務負担
日本では、給与所得者の所得〜税額計算は年末調整という形で事業者が担っています。この制度を導入すれば、1次的な作業はここで行われることになります。所得税の複雑化で事業者の負担は増しており、IT化の進展を踏まえつつ、どこまで吸収が可能であるか検討する必要があると考えられます。
⑤財源問題
これが最大の問題です。この制度は、単なる財源ではなく、歳入と歳出両方にまたがる問題です。執行体制と同様、社会保障制度や税制の見直しを行いつつ、必要な財源の確保が求められます。
今後の方向性
国会ではすでに協議が始まっています。給付付き税額控除制度の目的は、国の課題解決に向けて大変重要なものになると思われますが、導入のための課題も決して小さくはありません。それを乗り越えて制度が実現されることが望まれます。
※本稿では、森信茂樹「先進国の標準税制としての給付付き税額控除」税研145号を参考にしました。
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