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日銀の保有ETF売却

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日銀の保有ETF売却

公開日:2025.12.15

京都大学公共政策大学院 教授 株式会社伊予銀行 顧問 岩下 直行

  日銀は、9月に上場投資信託(ETF)の売却を所要の準備が整い次第開始することを決定した(このエッセーが刊行される時点では、売却手続きが決定され、売却が開始されているかもしれない)。

 日銀保有ETFの時価総額は、昨年度末時点で70兆円と国内上場株式の時価総額の7%に相当する。日銀のETF保有額は大きいだけに市場に放出されることになれば、株式市場を不安定化させるとの懸念も聞かれていた。米国トランプ政権のもとで、グローバル経済を巡る不確実性が高い状況が続く中、追加的な攪乱要因は避けて欲しいということかもしれない。

 実際、売却方針決定が報道されると、株価が大きく下落する局面もあった。ただ、その後は、史上最高値を更新するなど、株価は全体として堅調に推移しているようにみえる。日銀は、売却額を年間売買代金の0.05%程度に抑え、市場に攪乱的な影響を与えない方針を強調している。

 ETFは、英語名称のExchange Traded Fundの頭文字をとった略称で、株式市場で取引できる投資信託である。ETFは投資信託と同じように分散投資ができるとともに、株式のようにリアルタイムで売買できる点が特徴である。日銀が保有しているETFは、日経平均、TOPIX、JPX日経400の3種類の株価指数に連動した運用を目指すインデックス型のETFである。

 日銀によるETF購入がどのような経緯をたどってきたかを振り返ると、ETF購入は、白川元総裁時代の包括的金融緩和政策の一環として始まった。グローバル金融危機後の大幅な景気後退に対処するため、各種リスク・プレミアムの縮小を促す目的で導入された。ただ、当初は、買入規模も限定的で、買入残高上限と買入期限を設定した時限的なものであった。

 その後、黒田前総裁のもとでの量的・質的金融緩和政策の導入によって、買入規模が引き上げられると同時に、期限と残高上限も撤廃された。ただし、保有残高の増加は、2015年以降、買入額が大幅に引き上げられたことが大きく寄与している。

 今回、日銀は株価形成への影響を配慮して、上述のとおり市場全体の売買代金の0.05%程度という極めてゆっくりとしたペースでの売却を決めた。ただ、日銀のETF保有は大規模であり、売却ペースから単純計算すると、処分には100年以上を要する。総裁20人分以上の任期を要する長期の売却計画にコミットすることへの懸念も指摘される。また、日銀が間接的に多くの企業の大株主である状況も当面続くことになる。

 金利のある世界の金融システムについて議論されるが、株式市場の機能度向上も重要な課題である。その行方は、みなさんの生活設計や資産運用の環境にも影響し得る。日銀のETF売却は、株式市場がどれだけ自律的に機能できるかを試すものともなる。

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